研究課題/領域番号 |
17K11573
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
志馬 伸朗 広島大学, 医歯薬保健学研究科(医), 教授 (00260795)
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研究分担者 |
平位 秀世 京都大学, 医学研究科, 助教 (50315933)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 好中球 / 低体温 / 分化 / 成熟 / 敗血症 |
研究実績の概要 |
低体温の個体は感染症を併発しやすい。一方、感染症時には”予期しない体温低下”が生じうる。敗血症患者では低い体温と生命予後悪化が有意に関連する。これらは、感染症と体温の関連性について重要な示唆を与える。しかし、その詳細な機序については明らかでない。 好中球は骨髄で産生され感染局所に運ばれ宿主免疫の主要な役割を担う。この好中球の分化・成熟に、低体温がどのように影響を与えるかはこれまでに報告がない。そこで我々は低体温が好中球分化に及ぼす影響着目した検討を行った。 低温環境(4℃)に暴露させたマウスでは、通常温(22-23℃)で飼育したマウスに比して24時間後に有意な直腸温の低下(35.5±0.4対36.7±0.4℃)を認めた。低温暴露による低体温誘導後3日で、末梢血好中球数が減少した。骨髄細胞の好中球分化を、我々が開発したc-kit とLy6Gを用いた分類方法でフローサイトメトリー法により評価した結果、骨髄細胞の総数には変化が無かったが、成熟好中球の割合が減少し、成熟好中球と前駆細胞との中間段階の細胞数増加が認められた。 低体温に伴う血球以外の細胞の変化による造血への影響を排除する目的で、全骨髄細胞を異なる温度環境(37℃または 35℃)下に72時間培養したところ、in vivoでの変化と同様に好中球分化の中間段階の細胞数増加が認められた。好中球前駆細胞のみをセルソーターで分離して、35℃で培養を行うと、37℃に比して、分化成熟に向かう好中球の数が有意に減少していた。盲腸結紮穿孔によるマウス敗血症モデルを用いて体温と末梢血好中球数の変化を検証したところ、敗血症導入後に体温低下を来した個体では、体温低下を来さなかった個体に比して末梢血好中球数が有意に低下することを発見した。 これらの研究成果をAmerican Society of Hematologyなどで報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々なモデルを用いた体温と好中球分化成熟との関連性を評価する研究は順調に進んでいる。次の課題は、この現象の分子メカニズムを解明することである。現在、次世代RNAシーケンシング解析やメタボローム解析を用いて、低体温に由来する骨髄造血への影響に関わる分子メカニズムの解明実験に着手できている。
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今後の研究の推進方策 |
メカニズム解明に向けて、次世代RNAシーケンシング解析やメタボローム解析を用いた手法により検討を進める。様々な細胞系(精製された骨髄前駆細胞や、EML(赤血球、骨髄、およびリンパ球)細胞株を用いて、異なる温度での培養後に生じる遺伝子変化やメタボローム変化を観察し、それらの関連性を評価することにより骨髄造血に関連した低体温に関連する分子あるいは代謝経路を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品費が想定よりも少なく済んだが、次年度の遺伝子やメタボローム解析において使用する計画としている
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