研究課題/領域番号 |
17K11576
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
萬家 俊博 愛媛大学, 医学系研究科, 教授 (10230848)
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研究分担者 |
西原 佑 愛媛大学, 医学部附属病院, 講師 (50568912)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マイクログリア / 遅発性脳症 / 神経保護因子 / アポトーシス |
研究実績の概要 |
一酸化炭素(CO)中毒は暴露後数日から数週後に遅発性脳症(DNS)を呈することがあるが、その病態の主体は活性化マイクログリア(MG)による脱髄現象であるとされている。 8週齢の雄性Wisterラットを用い、空気吸入群 (A群)、高濃度のCOに暴露した群 (C群)、低酸素に暴露した群(L群)に分けた。その後21日間に渡り受動的回避実験により長期学習行動への影響を調べた。RT-PCR、Western Blotting、免役沈降法、フローサイトメトリーなどの免疫学的、分子生物学的、生化学的実験手技により、海馬組織や単離MGにおけるサイトカインや神経栄養因子の発現や貪食能などについて検討した。 行動実験では、暴露7日以降にC群においてのみ有意に記憶障害が認められた。また、これまでの報告の通りC群では脱髄が認められ、神経傷害もL群に比べ有意に強く、これらは少なくとも21日まで継続していた。しかしながら、これまでの報告とは異なり、C群ではMGが減少していた。さらに、それらの発現する神経保護因子やサイトカインが減少し、貪食能も低下することが示唆された。一方、L群ではMGの活性化を認め、それらが発現する一部の神経栄養因子のmRNAの発現が有意に増加した。 これらの結果から、CO曝露によるミエリンおよび神経細胞への傷害は、低酸素症と比較して重度であり、かつ持続的であることが分かった。また、COと低酸素では、MG自体の傷害か活性化かという点で大きく異なっており、CO暴露ではMGの減少と神経保護作用の低下が脱髄や神経傷害を遷延させ、遅発性脳症を引き起こす可能性が示唆された。 これらのデータは、Brain Researchに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
すでに一定の成果が得られており、学会発表・論文発表を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
マイクログリアが減少することが大きな要因の一つと考えられるため、マイクログリアの役割の一つである貪食作用について検討する。例えば、アルツハイマーではTAUと呼ばれる神経変性物が蓄積することが分かっており、その蓄積が認知機能に影響を及ぼしているが、通常マイクログリアはそういった変性物質を貪食する働きがある。しかしながら、一酸化炭素中毒後にはマイクログリアが減少することが判明したため、貪食能の低下が起こっている可能性がある。一酸化炭素中毒後の脳においてTAUなどの変性物質蓄積は認められるのか、また、その場合マイクログリアは正常に貪食を行っているのか、TAUの蓄積がある場合、遅発性脳症との関連があるのかなど、現時点での我々の報告とは異なるさらなる側面がある可能性を模索する。さらに、神経保護因子を補充もしくはマイクログリアの生存を助けるなどの、治療につながる検討を行う。たとえば、論文報告したいくつかの神経保護因子の補充や、マイクログリアの生存を助けるような化合物などの皮下注射を行い、遅発性脳症の発症にどういった影響を与えるのか、神経やミエリンの保持に有効に働くかなどの検討を重ねていく予定としている。
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