研究課題
交通外傷や心血管障害等による脳障害ならびに中毒性肝障害は、救急診療において日常遭遇する重要症例である。本研究では、救急症例の中で、生体の主要な臓器である脳および肝臓の障害に着目し、これらの病態における組織・細胞レベルの応答メカニズム解明に向けた基礎科学的アプローチを行い、障害の軽減と回復の促進を目指した臨床応用の基盤研究とすることを目的としている。申請者等はこれまで、細胞内情報伝達に関わる酵素ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)ファミリーの生理機能解析に従事してきたが、本研究課題の一つとして、DGK-KOマウスを用いて四塩化炭素による中毒性肝障害モデルの解析を行ってきた。その結果、DGKα-KOマウスにおいて肝線維化の指標であるα-SMA のタンパク発現が著しく亢進することを見出した。さらに、DGKα-KOマウスではPKCδのリン酸化レベルが亢進しており、PKCδによる肝星細胞の活性化が亢進している可能性が示唆されていた。薬物や中毒などによる肝障害は線維化を引き起こす。線維化のメカニズムとして、transforming growth factor β (TGFβ) によるPKCδ依存性の肝星細胞活性化が報告されていることから、本年度は、DGKα-KOマウスで見られたPKCδの活性化が、TGFβの分泌亢進によるものか、あるいはTGFβ受容体のシグナル伝達の増強によるものかを精査するために、モデルマウスの血中TGFβ量をELIZA法で測定した。その結果、四塩化炭素投与後における野生型とDGKα-KOマウスの血中TGFβに有意な差は認められないことが判明した。以上より、本実験で認められたPKCδの活性化はDGKα-KOによるシグナル伝達の増強作用によるものであることが示唆された。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (1件)
J Cell Biochem.
巻: 120 ページ: 10043-10056
10.1002/jcb.28288.