研究課題/領域番号 |
17K11607
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
市川 博之 東北大学, 歯学研究科, 教授 (20193435)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 運動障害 / 嚥下障害 / ミュータントマウス / 運動終板 / 感覚ニューロン |
研究実績の概要 |
本研究は、運動障害患者における嚥下障害の原因究明とその改善を目指す目的で行われている。生後2週におけるワイルドタイプマウスでは舌・軟口蓋・咽頭・喉頭における筋組織はエオシンに濃染していた。ヘマトキシリンで染色された核は筋線維に散在し、成熟マウスと比較して筋肉の大きさや筋線維の太さは小さかったが、その染色性や組織所見に大きな差は認められなかった。またPGP9.5を含む神経線維が、筋線維上で紡錘形の運動終板を形成し、成熟マウスと比較して、生後2週マウスの方が運動終板における神経終末の枝分かれが少なかった。また、生後2週におけるマウスの筋肉や筋線維の形態、染色性、運動終板の分布に明らかな個体差は認められなかった。 運動障害を示すdt マウス及びdmu マウスにおいては、摂食嚥下に関わる舌根・軟口蓋後部・咽頭・喉頭が、ワイルドタイプマウスに比べ小さく、それらに付着する筋肉も薄く、一部の筋線維が変性していた。すなわち、筋線維はエオジンに濃染し、細胞核が筋線維内で密集していた。しかしながらPGP9.5の免疫染色の結果、これらの筋線維における運動終板に大きな変化は観察されなかった。このことから摂食嚥下に関わる筋肉を支配する運動ニューロンに大きな変性は認められないことが示唆された。一方、dt マウスの咽頭・喉頭蓋における粘膜上皮下の神経線維が減少していることが観察されたことから、少なくとも一部の三叉神経・舌咽神経・迷走神経の感覚ニューロンに変性が生じている可能性が考えられた。この結果から、運動障害疾患における摂食・嚥下に関わる感覚ニューロンの重要な役割を示唆すると同時に、それらの変性が摂食困難や嚥下障害をもたらすと推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、運動障害を示すミュータントマウスにおける舌根・軟口蓋後部・咽頭・喉頭部での筋肉量の減少や筋線維の萎縮が見られたたものの、それらを支配する運動終板に大きな変化は観察されなかった。しかしながら咽頭・喉頭蓋における粘膜上皮下の神経線維が減少していることから、少なくとも一部の感覚神経に変性が生じている可能性が考えられた。運動障害疾患における摂食・嚥下に関わる感覚ニューロンの重要な役割を示唆すると同時に、それらの変性が摂食困難や嚥下障害をもたらすと推測される。このような所見は現在までに報告されたことがなく、今後の本研究の新たな方向性を示すものと考えられる。したがって、本研究課題は現在までに、おおむね順調に進捗していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究では、摂食・嚥下に関わる筋肉の運動終板の分布に大きな変化は認められなかった。しかしながら、運動ニューロンの変性に関して形態学的観察だけでは十分ではない。例えば三叉神経運動核や舌下神経核における運動ニューロンにおける伝達物質の合成や分泌に関わる機能に関わる変化についての知見も必要であると考えられるため、これらについて詳細に検討する予定である。 また粘膜上皮下の神経線維が減少していたことから、三叉神経節・舌咽神経・迷走神経の感覚ニューロンに細胞死や変性が生じている可能性が示唆された。したがって次年度においては、舌根・咽頭・喉頭・口蓋粘膜上皮下や上皮内に存在する、さまざまな刺激に対するセンサー(TRPV1、TRPM8, TRPV3、TRPV4)の分布変化を運動障害モデルマウスとワイルドタイプマウスで比較検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題で使用する薬品(主に抗体や吸収試験に用いる抗原)については、多くのものが輸入品である。また発注後、数ヶ月を要して作製される抗原蛋白もあるため、今年度中に使用することが困難であった。次年度については早期に発注し使用する予定である。
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