本研究は、運動障害患者における嚥下障害の原因究明とその改善を目指す目的で行われている。そのためにジストニアのモデルマウスであるジストニンノックアウト(dt)マウスや筋委縮症のモデルマウスであるdmuマウスにおける摂食嚥下に関わる筋、骨、軟骨などの組織や神経支配の変化について明らかにする。生後2週におけるワイルドタイプマウスでは舌・軟口蓋・咽頭・喉頭における筋組織はエオシンに濃染し、ヘマトキシリンで染色された核は筋線維に散在し、成熟マウスにおける組織所見と大きな差は認められなかった。しかし骨や軟骨は発生途上のため石灰化の程度は低かった。また運動ニューロンの終末である運動終板や感覚ニューロンの終末と考えられる上皮内及び上皮下における神経線維は成熟マウスと比べ神経終末の枝分かれが少ないものの大きな変化は観察されなかった。 一方、dt マウス及びdmu マウスにおいては、摂食嚥下に関わる舌根・軟口蓋後部・咽頭・喉頭が、ワイルドタイプマウスに比べ小さく、それらに付着する筋肉も薄く、一部の筋線維が変性していた。特に嚥下に関わる喉頭筋の一部は筋線維が委縮しエオジンに濃染するとともに細胞核が筋線維内で密集していた。これらの筋線維における運動終板に大きな変化は観察されず運動ニューロンに大きな変性は認められないことが示唆された。一方、dt マウスの咽頭・喉頭蓋における粘膜上皮下の神経線維が減少していることが観察された。熱や酸のセンサーであるカプサイシン受容体TRPV1の発現が三叉神経・舌咽神経・迷走神経の感覚ニューロンやそれらの終末に少なくなっていた。以上の結果から、筋委縮症における摂食嚥下障害は主に筋肉の変性により、そしてジストニアにおける摂食嚥下障害は感覚神経やそれに含まれるセンサーの変性によることが示唆された。
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