研究課題
骨芽細胞は骨細胞へと最終分化するほか,一部は休止期骨芽細胞となり,多くはアポトーシスにより死滅する。また,ある条件下において脂肪細胞へと分化転換する。このように多様な運命をたどる骨芽細胞は,将来の運命決定に必須の分子を備えた多様性に富む細胞集団であると推察される。そこで,本研究では,骨芽細胞の遺伝子発現情報をシングルセルレベルにて解析し,骨芽細胞の多様性(分化方向性)に働く機能因子の探索を試みた。I型コラーゲン(2.3 kb Col1a1)プロモーター制御下で蛍光タンパク質Venusを発現するレポーターマウスの頭蓋冠から,Venus陽性細胞を単離し,計283個の細胞についてシングルセルRNA-Seqを行った。得られた全遺伝子発現情報を複数の機械学習アルゴリズムを用いて解析した。全ての細胞において骨芽細胞マーカーの発現を認め,Venus陽性細胞が骨芽細胞であることを確認した。UMAPおよびt-SNEを用いた次元削減によるクラスター分析の結果,骨芽細胞は大きく4つの細胞集団に分類された。Seuratを用いて各クラスターに特徴的な遺伝子を抽出し,既知の分化マーカーと照らし合わせた結果,未成熟骨芽細胞,成熟骨芽細胞,幼若骨細胞に加え,骨芽細胞マーカーと間葉系幹細胞のマーカーを共に発現する(幹細胞性を兼ね備えている)特殊な骨芽細胞を見出した。Monocleを用いた分化系譜の予測では,未成熟骨芽細胞から連続的に成熟骨芽細胞へと分化し,その後,幼若骨細胞と幹細胞性を兼ね備えた骨芽細胞へと分岐して分化が進行すると予測された。以上の結果,骨芽細胞は多様性に富む細胞集団であり,その多様性が骨芽細胞の運命決定に関与する可能性が示唆された。
3: やや遅れている
所属の異動による前年度までの進行の遅れが,研究期間全体に影響を及ぼしている。1年間研究期間を延長させて頂き,当初の計画の達成を目指す。
シングルセルRNA-seqの解析から得られた骨芽細胞の遺伝子発現プロファイルをもとに,複数の機械学習アルゴリズムを用いた遺伝子調節ネットワークモデルの構築を試みる。モデルの検証および立証を目的に,ネットクワークの鍵となりうる分子(特に転写調節因子)に注目して,in vivoおよびin vitro における分子動態を探る。具体的には,実験動物(マウス)を用いて,成長,加齢,および骨疾患に伴う時空間的分布動態を組織学的に解析し,骨代謝における機能を明らかにする。また,培養骨芽細胞(MC3T3-E1細胞あるいはST2細胞)を用いて,分化に伴う遺伝子発現量・細胞内局在の変動を分子生物学的手法および免疫細胞染色により明らかにし,骨分化に及ぼす機能を類推する。必要に応じて,ウイルスベクターを用いた過剰発現,siRNAあるいはCRISPR-Cas9を用いた発現抑制を行い,機能をより明確にする。以上の解析から,骨芽細胞の分化方向性を制御する遺伝子調節ネットワークについて,時間軸,空間軸を加味した統合的理解を目指す。
所属の異動による前年度までの進行の遅れにより,次年度使用額が生じている。次年度は,実験動物(マウス),組織学的解析,細胞培養,ベクターなどの購入に使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
Communications Biology
巻: 3 ページ: -
10.1038/s42003-020-0754-2