研究課題/領域番号 |
17K11613
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
吉岡 広陽 国際医療福祉大学, 医学部, 講師 (50523411)
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研究分担者 |
吉子 裕二 広島大学, 医系科学研究科(歯), 教授 (20263709)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 骨芽細胞 / 骨代謝 |
研究実績の概要 |
骨芽細胞は骨形成を担った後、アポトーシスにより死滅するほか、骨表面にとどまり休止期骨芽細胞となる、あるいは骨基質に埋もれて骨細胞へと分化する。また、加齢や病態に伴い、骨芽細胞が脂肪細胞へと分化転換する例も報告されている。このように骨芽細胞は多様な運命を辿るが、その運命がどのような分子機構により決定されているのかは不明な点が多い。本研究では、骨芽細胞の遺伝子発現情報をシングルセルレベルにて解析し、骨芽細胞の多様性(分化方向性)に働く機能因子の探索を試みた。 計283個の細胞から得られた全遺伝子発現情報をもとに複数の機械学習を行った結果、骨芽細胞は大きく4つのクラスターに分類された。そのうち、3つのクラスター(クラスター1-3)は骨芽細胞マーカーの発現が類似していたが、1つのクラスター(クラスター4)は明らかに異なっていた。既知の分化マーカーと照らし合わせた結果、クラスター1-3は異なる成熟(分化)段階にある骨芽細胞を捉えていることが明らかとなった。また、重み付き遺伝子共発現ネットワーク解析(WGCNA: Weighed Gene Co-expression Network Analysis)から相関性の高いモジュール(共発現遺伝子群)を同定し、これらのクラスターでは、タンパク質合成や小胞体とゴルジ体間のタンパク質輸送に関わる遺伝子が活発に働いていることがわかった。一方で、クラスター4の細胞は骨芽細胞マーカーと間葉系幹細胞のマーカーを共に発現する特殊な骨芽細胞であり、前駆細胞としての性質を保持または再獲得していることが示唆された。WGCNA解析からは、細胞内でのタンパク質輸送、Rasシグナル伝達、細胞周期など、複数の機能に関与するモジュールと相関性が認められた。以上の結果、骨芽細胞が機能的にも多様性に富む細胞集団であり、その多様性が骨芽細胞の運命決定に関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
所属の異動による前年度までの進行の遅れに加え、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延による研究活動の制限が、研究期間全体に影響を及ぼしている。1年間研究期間を延長させていただき、当初の計画の達成を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
シングルセルRNA-seqの解析から得られた骨芽細胞の遺伝子発現情報をもとに、複数の機械学習アルゴリズムを用いた遺伝子調節ネットワークモデルの構築を試みる。また、ネットクワークの鍵となりうる分子(特に転写調節因子)に注目して、in vivoおよびin vitro における分子動態を探る。具体的には,実験動物(マウス)を用いて、時空間的分布動態を組織学的に解析し、骨代謝における機能を明らかにする。また、培養骨芽細胞(MC3T3-E1細胞あるいはST2細胞)を用いて、分化に伴う遺伝子発現量・細胞内局在の変動を分子生物学的手法および免疫細胞染色により明らかにし、骨分化に及ぼす機能を類推する。以上の解析から、骨芽細胞の分化方向性を制御する遺伝子調節ネットワークについて、時間軸、空間軸を加味した統合的理解を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属の異動による前年度までの進行の遅れ、および新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延による研究活動の制限により、次年度使用額が生じている。次年度は、実験動物(マウス)、組織学的解析、細胞培養関連物品などの購入に使用する予定である。
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