研究課題
本研究では、ストレプトリジンS(SLS)を産生して細胞障害性を示すStreptococcus anginosus subsp. anginosus(SAA)における可動性遺伝因子(MGE)の存在意義を明らかにすべく、遂行した。初年度はプラスミドに注目し、SAAが保有するプラスミドの塩基配列と分子特性を明らかにした(英語論文として発表済)。2年度目はファージに注目し、SAAにおける溶原ファージの溶菌特性やファージゲノムの配列決定を行った(研究会にて発表済)。加えて、SAAにおけるMGEの株間伝達の機構を明らかにするために、自然形質転換システム(Comシステム)に注目してin silicoでの検討を行った。そして、レンサ球菌と大腸菌のシャトルベクターを用いて検討した結果、機能型のComシステムを保有するSLS産生性のSAA株でベクターの伝播を示唆する結果が得られた。最終年度は、SAA由来MGEの細胞障害性への関与について、細胞との共培養条件における菌体内の遺伝子発現変動の解析を行った。プラスミド保有株もしくは欠落株をヒト口腔扁平上皮癌由来細胞と共培養後、菌体内の遺伝子発現についてRNA-seqにより検討した結果、プラスミドの有無で19遺伝子に発現量の差異が確認され、その多くが欠落株で発現量が低下していた。この19遺伝子の中に細胞障害性に直接的な関与を示す遺伝子は確認されなかったが、間接的な機能については検討が必要であり、現在検討中である。本研究により、ヒト口腔常在レンサ球菌であるSAAが保有するMGEとして、プラスミド及び溶原ファージの存在を明らかにした。MGEは保有株の形質(病原性や薬剤耐性など)に影響を及ぼす可能性があり、日和見病原菌と認識されているSAAにおいてその存在が確認されたことは、本菌の潜在的な病原性を議論する上で重要な知見であると考える。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
Journal of Oral Microbiology
巻: 11 ページ: 1609839~1609839
10.1080/20002297.2019.1609839