研究課題/領域番号 |
17K11623
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
佐々木 実 岩手医科大学, 歯学部, 教授 (40187133)
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研究分担者 |
石河 太知 岩手医科大学, 歯学部, 助教 (10569247)
下山 佑 岩手医科大学, 歯学部, 講師 (90453331)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | S. anginosus / 感染発癌 / 生理活性物質 / クローニング / タンパク質発現 |
研究実績の概要 |
AIDは通常B細胞でしか働かないといわれているが,Helicobacter pyloriに感染したマウスの胃粘膜上皮細胞等で過剰発現していることが明らかとなった.従って本菌による感染発癌機構にAIDの異所性発現が関与していることが示唆されている.我々はこれまで口腔レンサ球菌の一菌種で口腔扁平上皮癌の原因因子として報告されているStreptococcus anginosusにおいても口腔癌組織においてAIDの異所性発現が関連することを報告した.本研究では,S. anginosusによる細菌性生物発癌機序の解明を目的として,菌由来生理活性物質SAAの正常歯肉上皮細胞へのAID発現誘導,ならびにSAA遺伝子のクローニングさらにその組換タンパク質を作製し,SAAによる正常歯肉上皮細胞へのAID異所性発現ならびにiNOS誘導さらにはp53変異誘導について検討する. 本年度はS. anginosus菌由来精製生理活性物質SAAの正常歯肉上皮細胞へのAID発現誘導を検討し明らかな異所性発現誘導を認めた.さらに,SAAの同定と遺伝子クローニングを行った.すなわち,SAAを二次元電気泳動し,特異抗体を用いてウエスタンブロッティングを行った.抗体と特異的に反応したスポットを切り出しLC-MS/MSを行い解析した.その結果,既に報告があるS. anginosusのゲノム情報からSAAは菌体のタンパク質合成に関わるハウスキーピンングタンパク質であることを明らかにした.現在SAAタンパク質の遺伝子全長を発現ベクター(pGEX-4T)に組込み大腸菌(XL1-blue)に導入しGST融合タンパク質としてリコンビナントSAAを作製している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は, S. anginosus菌由来生理活性物質SAAの正常歯肉上皮細胞へのAID発現誘導を検討し,明らかな異所性発現を認めた.さらにSAAの同定および遺伝子のクローニングさらにはリコンビナントタンパク質の発現について検討した.精製SAAを二次元電気泳動後,特異抗体と反応するスポットをLC/MS解析し,既存のS. anginosus由来タンパク質と同定できた.遺伝子の解析をゲノムライブラリーから検討し,本遺伝子を発現ベクターにクローニング,さらには大腸菌を用いたリコンビナントタンパク質の発現にも成功した. 従って,現在までの到達度としては,29年度に予定していた当初の計画のうち歯肉上皮細胞におけるSAAによるp53配列に対する検討がまだ途中であるが,それ以外の本年度計画は順調に推移し,さらに次年度の計画にも着手していることから,おおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに作製したリコンビナントSAAを用いて,上皮細胞上レセプターの解析を行う.細胞にリコンビナントSAAを作用させ一定時間培養し,免疫沈降により回収しSDS-PAGEを行う.抗SAA抗体を用いたウエスタンブロッテイングでレセプターのタンパク質バンドを検出し,LC-MS/MSにより同定する. さらにリコンビナントSAAによる細胞内シグナル伝達系について,NF-κBの活性化はpGL4.32[Luc2p/NF-kB-RE/Hygro]Vectorを用いたレポーターアッセイによるルシフェラーゼアッセイで検討する.すなわち,歯肉上皮細胞にベクターをトランスフェクトし,SAA刺激後のNF-kB活性化による発光の強度を計測する.また,MAPKの活性化についてはSAA刺激した歯肉上皮細胞をSDS-PAGE後に抗リン酸化ERK, JNK, p38抗体を用いてECLウエスタンブロッティングで解析する.さらに,各種阻害剤を用いることで活性化される細胞内シグナル伝達経路を明確にし,また,細胞内シグナルを阻害することがAID発現に及ぼす影響も同時に検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
AIDの発現にともなう上皮細胞中の p53遺伝子配列の変異解析を次年度以降に行うこととしため,それに伴いDNAシークエンスキットを次年度以降購入するので,本年度使用額が予算と比べわずかであるが少なくなった. 次年度は前年度のDNAシークエンス解析に加え,前年度までに作製したリコンビナントSAAを用いて,上皮細胞上レセプターの解析を行う.さらにリコンビナントSAAによる細胞内シグナル伝達系について,NF-κBの活性化,MAPKの活性化についてルシフェラーゼアッセイおよびウエスタンブロッティングで解析する. 次年度研究実施計画のうち本年度持ち越し分を加えて来年度予算は,各種キット類,酵素試薬,生化学試薬,阻害剤,ベクター代,LC/MS解析用消耗品,その他消耗品代にあてる.
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