研究課題/領域番号 |
17K11627
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
森崎 弘史 昭和大学, 歯学部, 講師 (30317581)
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研究分担者 |
深町 はるか 昭和大学, 歯学部, 助教 (10433799)
桑田 啓貴 昭和大学, 歯学部, 教授 (60380523)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Streptococcus sanguinis / csRNA / Streptococcus oralis |
研究実績の概要 |
今年度はStreptococcus sanguinisのcsRNAの解析に加えて、同じmitis菌群のレンサ球菌であり、感染性心内膜炎の重要な原因菌であるStreptococcus oralisのcsRNAについても解析を進めた。まず、S. oralisのcsRNAの1つである、csRNA3の標的分子の検索を行った。sRNAの標的分子検索サイトであるTargetRNA2を用いてS. oralisゲノム配列を検索した結果、特にcsRNA3と結合する可能性が高いと予想された分子は、細胞壁溶解酵素であるautolysinとフォスフォグリセリン酸キナーゼ(PGK)であった。autolysinは細菌が増殖する時に細胞が分裂する際や形質転換で外来遺伝子を取り込む際に細胞壁を部分的に溶かす働きをする酵素である。PGKは解糖系において基質レベルのリン酸化を行う酵素だが、ある種の菌では細胞表層にも発現することが知られており、レンサ球菌ではStreptococcus pneumoniaeや Streptococcus agalactiaeで補体の活性化阻害やアクチンやプラスミノーゲンとの結合など細菌の病原性に関与することが知られている。これらのことからcsRNA3がこれらの標的分子の発現調節を通してS. oralisの病原性発現に関与している可能性が考えられたため、S. oralisのcsRNA3欠損株を作製しautolysinやPGKの発現量の変化を調べた。その結果、野生株と欠損株の間で有意な差は認められなかった。さらにS. oralisのcsRNAの標的分子を検索したところ、菌体表層タンパク質の局在制御に関わるsrtAがcsRNAの標的分子となる可能性が明らかとなった。そこで、srtAの制御を受けることが予想される表層タンパク質の局在変化などを調べるために抗体作製等を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は感染性心内膜炎を対象とし、その発症に関わる細菌の病原性調節機構を解明し、新たな感染症治療法開発の基盤となる知見を得ることを目的としている。2017年度はStreptococcus sanguinisを対象とし、csRNAの標的分子の検索を行った。その結果、細菌の運動や、組織への付着、外来遺伝子の取り込みなど細菌の病原性発現に重要な働きをすると考えられるⅣ型線毛の調節因子であるpilTがcsRNA1-1, csRNA1-2の標的となること、また、これらのcsRNAがS. sanguinisのバイオフィルム形成に関わることなどが明らかとなった。これらの成果についてまとめた原著論文が国際誌に掲載された。2018年度はさらにcsRNA1-3の解析を行った。その結果、csRNA1-3はcsRNA1-1, csRNA1-2との塩基配列の相同性に関わらず、それらと同様の機能を示さないことが明らかとなった。以上の成果が得られていることから、本研究課題の研究計画の内、「S. sanguinisの環境適応・病原性発現に関与するsRNA の検 索」、「S. sanguinisのsRNA の標的分子の検索」、及び、「S. sanguinisのsRNA 欠損株の作製とその性状の解析」について、一定の進捗がみられていると判断できる。また、2019年度はS. sanguinis以外の感染性心内膜炎の起炎菌にも対象を広げ、Streptococcus oralisのcsRNAについても解析を進めた。その結果、S. oralisにおいても病原性発現に関わる複数の因子がcsRNAの制御を受ける可能性があることがわかってきた。以上から研究全体の進捗状況としては概ね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
Streptococcus oralisのsRNAの解析を進め、感染性心内膜炎の原因となる複数種の菌で同様の機能を示すsRNA等の環境適応や病原性発現の調節因子を解明することで、細菌の病原性制御機構の解析を推進することが可能になると考えられる。これまでの結果から、S. oralisのautolysinやPGKについては単独のcsRNAではなく、複数のcsRNAが制御している可能性が考えられる。そのため、複数のcsRNAに変異を導入した菌株、あるいはcsRNAの上流の制御因子であるciaRHシステムを変異させた菌株などを作製して解析を進めることでより有用なデータが得られると考えられる。さらに、S. oralisの菌体表層タンパク質の局在を制御するsrtAについて、その制御を受けるLPXTGモチーフを持つタンパク質の欠損株の作製を進めており、得られた欠損株について、その性状を解析することで、srtAの上流で働くcsRNAの機能の解明も進むと考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度はS. sanguinisに加えてS. oralisのcsRNAの解析も行った。その結果、菌体表層タンパク質の局在制御に関わるsrtAがcsRNAの標的分子となる可能性が明らかとなった。そこで、srtAの制御を受ける表層タンパク質の解析をするために組換えタンパク質の精製や抗体の作製などを行った。機能解析に必要な表層タンパク質の欠損株の作製に予定よりも時間を要したため、次年度使用額が生じた。そのため、抗体を用いた機能解析や欠損株の性状解析等を2020年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てる予定である。
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