研究実績の概要 |
本研究課題は感染性心内膜炎を対象とし、その発症に関わる細菌の病原性調節機構を解明することを目的としている。2017年度はStreptococcus sanguinisを対象とし、csRNAの標的分子の検索を行い、細菌の運動や組織への付着など細菌の病原性発現に重要な働きをするⅣ型線毛の調節因子であるpilTがcsRNA1-1, csRNA1-2の標的となること、また、これらのcsRNAがS. sanguinisのバイオフィルム形成に関わることなどを明らかにした。2018年度はさらにcsRNA1-3の解析を行った。その結果、csRNA1-3はcsRNA1-1, csRNA1-2との塩基配列の相同性に関わらず、それらと同様の機能を示さないことが明らかとなった。また、2019年度はS. sanguinis以外の感染性心内膜炎の起炎菌にも対象を広げ、Streptococcus oralisのcsRNAについても解析した。その結果、病原性発現に関わる複数の因子がcsRNAの制御を受ける可能性があることがわかり、その中でもS. oralisの菌体表層タンパク質の局在を制御するsrtAに着目し、その制御を受けるLPXTGタンパク質の解析を進めた。最終年度である2020年度はS. oralisのLPXTGタンパク質遺伝子のひとつであるSOR_RS09320の解析を行った。SOR_RS09320は既知の5’-nucleotidaseの塩基配列と相同性があるため、その欠損株と組換えタンパク質を作製して調べたところATP分解活性を持つことが明らかとなった。細胞外ATPは免疫系を活性化する因子として知られており、S. oralisが保有する菌体表層5’-nucleotidaseは、血液中においてATPを分解することで免疫系を抑制し、S. oralisの定着を促進する病原因子となる可能性が考えられた。
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