研究課題/領域番号 |
17K11631
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研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
佐藤 かおり 日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (90287772)
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研究分担者 |
田谷 雄二 日本歯科大学, 生命歯学部, 准教授 (30197587)
白子 要一 日本歯科大学, 生命歯学部, 助教 (50756377) [辞退]
添野 雄一 日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (70350139)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 歯学 / 病理学 / マウス顎顔面発生 / リンパ管形成 / リンパ管内皮細胞 / ガイダンス因子 / 細胞遊走 / microRNA |
研究実績の概要 |
本研究では、主静脈を起点として遠隔の下顎突起までのリンパ管内皮細胞の移住とその誘導に関わるガイダンス機構の解明を目的として、移住経路近傍の諸細胞およびゴールとなる下顎突起内の細胞等から発せられるガイダンス因子とその分子制御の仕組みを明らかにする。これらの制御因子を発現する細胞を特定するとともに、リンパ管内皮細胞との位置関係と組織内局在の解析によりリンパ管内皮細胞を中心とした細胞間の連携ネットワークを究明する。 2019年度においては、ガイダンス因子を含むリンパ管形成に関わる遺伝子の発現について網羅的に列挙するために、ICRマウス胎仔(E9.5~11.5)のリンパ管内皮細胞の下顎突起までの移住経路において、リンパ管内皮細胞を含む領域の組織を採取し、DNAマイクロアレイ、ならびにmicroRNAマイクロアレイの解析を行った。IPA等を使ったデータ処理を行い、発現プロファイルを作成した。これらの分析結果はリアルタイムRT-PCRによりガイダンス因子と受容体とマイクロアレイ解析で新たに抽出された分子種の遺伝子・microRNA発現を検証した。その結果、Gene Ontology(GO)解析から、胎生9.5日からは血管新生に関わる遺伝子群の有意な発現変動がみられるが、リンパ管発生に関連する遺伝子群は胎生11.5日から14.5日にかけて発現上昇することが明らかとなった。DNAマイクロアレイとリアルタイムPCRによる定量解析では、リンパ管内皮分化の初期段階で寄与しProx1の発現誘導するSox18はE12.5で発現上昇した。静脈内皮マーカでありProx1と協働してリンパ管分化に寄与するCoupTF2では、静脈分化にともなってE13.5でピークを示し、リンパ管内皮細胞分化の中心的な役割を持つ制御因子であるProx1はE14.5でピークを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
体幹部主静脈近傍のリンパ管発生において、BalloonモデルとBuddingモデルの2つの仮説が提唱されている(Chenら, 2015)。Balloonモデルは主静脈からリンパ管内皮細胞が風船のように連なってリンパ嚢を生じ、Buddingモデルは主静脈の複数箇所から出芽したリンパ管内皮細胞の連なりが互いに連結や切断によりリンパ嚢を形作るものである。これらのモデルとは別に、主静脈からリンパ管内皮細胞が直接、出芽して遊走する場合があること(移住モデル)も報告されている。顎顔面領域でのリンパ管構築では、① “体幹部と同様に、顎顔面領域の静脈からリンパ管内皮細胞が分化しリンパ管が出芽する”、② “体幹部で構築されたリンパ管が顎顔面領域まで伸長してくる”、③ “体幹部の主静脈で分化したリンパ管内皮細胞が顎顔面領域まで個々に遊走してきてリンパ管を構築する”の3つの仮説が想定できた。 初年度から継続しているマウス初期の顎顔面領域のリンパ管構築過程の解析から、顎顔面領域のリンパ管内皮細胞の起源は体幹部主静脈であり、体幹部主静脈で分化したリンパ管内皮細胞は出芽・遊走し、顎顔面領域まで決まった経路を辿って移動すること、顎顔面領域では、リンパ管内皮細胞同士が接着し、リンパ嚢形成を経て、リンパ管が形成されることが明らかとなった。このことから、③の“体幹部の主静脈で分化したリンパ管内皮細胞が顎顔面領域まで個々に遊走してきてリンパ管を構築する”ことが仮説として最も有力であることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降、移住途上にあるリンパ管内皮細胞と体幹部や下顎突起内の細胞との相互作用に働く新規のガイダンス因子候補を網羅的に列挙するために行ったDNAマイクロアレイ、ならびにmicroRNAマイクロアレイの解析からの発現プロファイルの作成と遺伝子発現の検証を継続する。 静脈内皮細胞Endomucin、血管内皮細胞Pecam1の抗体、線維芽細胞S100A4、神経軸索NFP, GAP43、上皮細胞pan-Cytokeratin、筋前駆細胞Desmin等の特異抗体を使用した免疫組織化学等によるタンパク質レベルの分析と組織内局在の検討は開始しており、それぞれの抗体と組み合わせで空間的な位置関係を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度では、研究分担者の作業配分を効率化したことと研究の進展状況から実験補助を依頼する予定であった大学院生への謝金が予定額よりも抑えられたこと、学会参加費用は大学からの資金で賄えることができたため、次年度使用額が生じた。 今後の研究の推進方策として、計画していたガイダンス因子の探索のために、DNAマイクロアレイ解析で注目された遺伝子候補を増やして、これらの遺伝子候補についてリアルタイムPCRによる検証と発現パターン解析のために必要な核酸抽出試薬やリアルタイムPCR用の試薬とプライマーに使用する。
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