Prg4は関節軟骨表層に発現し、関節軟骨変性の進行を抑える分子として注目されているが、その発現調節機構は不明な点が多い。これまでの研究から、Prg4発現を強力に誘導する因子として、TGF betaとWntシグナルが挙げられる。そこで軟骨細胞におけるIrx3とWntシグナルの関係を調べるために、軟骨細胞株N1511および初代ニワトリ軟骨細胞を用いてレポーターアッセイを行った。Irx3は両細胞においてWntシグナルレポーター遺伝子TOPFlash活性を上昇させ、同シグナル阻害因子のdominant-negative LEF1の共発現によってこの活性上昇が抑制された。また逆に、安定型beta cateninによるTOPFlash活性上昇は、dominant-negative Irx3の共発現によって抑制された。さらに、Irx3過剰発現群をGFP発現群と比較したところ、13種類のWntファミリー遺伝子のうちWnt4のみIrx3による発現上昇が認められた。また、3種類のWntの共受容体Lgrファミリー遺伝子のうちLgr6のみIrx3による発現上昇が誘導され、siLgr6で処理した細胞では、Irx3によるTOPFlash活性上昇が有意に低下した。さらに、マウス大腿骨での免疫染色の結果から、関節軟骨部においてIrx3とLgr6は類似した発現パターンを示すことが明らかとなった。これまでの遺伝子改変マウスを用いた解析結果により、関節軟骨部におけるWnt4発現減少とPrg4発現減少は相関することが報告されていることから、Irx3は関節軟骨部において、Wnt4やLgr6発現誘導を介したWntシグナル活性の調節により、Prg4発現を調節することが示唆された。
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