研究課題/領域番号 |
17K11637
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田村 正人 北海道大学, 歯学研究科(研究院), 教授 (30236757)
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研究分担者 |
田村 潔美 北海道大学, 歯学研究科(研究院), 助教 (90399973)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 骨 / 脂肪組織 / 脂質代謝 / スクレロスチン |
研究実績の概要 |
近年,骨は単なる運動器器官のみならず,さまざまな臓器間ネットワークを介する代謝の臓器の一つと考えられるようになり骨と遠隔臓器とのさまざまな関連性が注目されてきた.骨芽細胞のインスリンシグナルは骨芽細胞と破骨細胞との相互作用の調節を介してオステオカルシン合成を促進し,このオステオカルシンはすい臓でインスリンの合成・分泌を促進することで糖代謝を制御するという報告である.これまで脂肪組織が産生するアディポサイトカインが骨組織に及ぼす効果は知られているが,その反対の「骨組織から脂肪組織へのシグナル分子」の詳細,脂肪組織の恒常性維持に果たす骨の役割については全く不明であった.研究代表者らは,in vitroのマウス由来3T3-L1細胞培養系において組換えsclerostin(Sost遺伝子産物)タンパク質を加えると,脂肪細胞への分化が誘導されることを見出し報告した.そこで本研究では,骨細胞が産生し分泌されるsclerostinとneuropeptide Yについて脂肪組織や脂質代謝に及ぼす影響とその詳細な分子機序を明らかにし,骨組織と脂肪組織の異種組織間の恒常性維持のための機能的なクロストークを明らかにすることを目的とした.抗sclerostin抗体を投与したマウスなどを用いて,脂肪組織や肝臓などにおける脂質代謝系において「骨組織から脂肪組織へのシグナル分子」としてのsclerostinがどのような機構を介し影響を及ぼすのか,その詳細な分子機構を検討した.また,neuropeptide Yの脂質代謝に及ぼす効果とsclerostinとの関係についても検討を行った.本年度,本研究により得られた結果から,骨細胞が産生するsclerostin が,脂肪組織における脂質代謝に明らかに影響を及ぼしていることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究計画に基づき研究を実施し,以下の研究成果を得たため.抗体を投与したマウスを飼育した後,脂肪組織量および脂肪細胞の活性の指標となるアディポネクチンを測定したところ,いずれも減少した.Oil RedO染色を行い脂肪細胞の脂肪滴を調べたところ,部位により脂肪滴の減少が観察された.脂肪組織から全RNAを採取し,RT-PCR法を用いてPPARγ, COUP-TFII,Foxo1等の転写因子の発現量を測定した.また,LPL(1ipoprotein 1ipase),FAT(fatty acid tansporter),ACS(acy1-CoA sypthetase),UCP(uncoup1ing protein)など脂肪酸の取り込み,輸送,酸化などに関与する分子の発現を調べた.PPARγ, LPLおよびUCPのmRNA発現量の減少が認められた.脂肪細胞分化に関与するヒストンメチル化酵素Setdb1のmRNA発現量も低下した.また,マウス3T3-L1細胞培養系においてneuropeptide Y Y1受容体のmRNA発現が確認された.そこでsiRNAをトランスフェクションしてneuropeptide Y Y1受容体のノックダウンを行ったところ,3T3-L1細胞の脂肪滴はコントロールのsiRNAをトランスフェクションした場合に比べて著明に減少した.また,PPARγ,LPLのmRNA量も低下した.これらの結果はneuropeptide Yが骨芽細胞分化のみならず脂肪細胞分化に対しても影響を与えうることを示すものであった.
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今後の研究の推進方策 |
脂肪組織だけではなく,脂質代謝の中心臓器である肝臓の試料を用いて,acyl-CoA carboxylaseなどの脂肪酸合成系やHMG-CoA reductaseなどのコレステロール代謝酵素の酵素活性を測定し,qRT-PCRやWestern解析を用いて脂質代謝関連分子の動態を検討していく. 脂肪組織からのシグナル分子によるsclerostinの産生調節機構の解明を行う,すなわち,アディポサイトカインなど脂肪組織からのシグナルによってsclerostinの産生が増減するのかについて,MLO-Y4細胞などの培養系を用いqRT-PCRもしくはWestern Blotを用い,アディポサイトカインなど脂肪細胞が産生する種々の因子の添加による発現量の変化を調べる.また,高脂肪食飼料で飼育したマウスから血清を採取し,sclerostinタンパク量をELISA法によって測定する. 以上の研究手法を駆使することで,今後はより一層研究の推進を図る.
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度の研究費も含めて,おおむね当初の予定に従って研究を進めていく.
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