研究課題
今年度は、1日1回マウス鼻腔内ヘロテノン (0.35 mg/kg) を1週間連続投与したパーキンソン病モデル動物を作成し、味覚および嗅覚の経時的変化を行動学的および免疫組織学的に観察した。味覚機能の評価には、キニーネに対する味覚嗜好テストを行った。一方、嗅覚機能の評価には、酪酸に対する忌避行動テストを行った。2瓶選択嗜好試験では、ロテノン投与前に比べて1週間投与後のキニーネに対するPreference ratioに増加傾向を認めた。また、リック解析試験では、ロテノン投与前に比べて投与後において高濃度のキニーネに対する味覚感受性が有意に減少し、濃度-リック数曲線が右側へ大きくシフトした。一方、ロテノンを1週間連続投与したマウスでは、酪酸を置いた時のショートアームでの滞在率と水を置いた時の滞在率との間に有意差がなく、過去の先行研究と同様に、酪酸に対する忌避行動が消失した。以上のことから、ロテノンを1週間鼻腔内投与したマウスでは、嗅覚だけでなく味覚の障害が引き起こされている可能性が示唆された。また、ロテノン投与マウスでは、嗅球および孤束核におけるTyrosine Hydroxylase 陽性細胞数がVehicle投与マウスに比べて有意に減少した。このことから、ロテノン投与による味覚/嗅覚障害にはこれら2つの領域の障害が強く関与している可能性が示唆される。次年度以降では、孤束核が障害される中枢性あるいは末梢性の病理進展経路を同定するとともに、ロテノンの投与期間を延長し、非運動障害から運動障害へ至る病理進展状況についても検討する。
2: おおむね順調に進展している
今年度はパーキンソン病モデル動物を用いた行動実験および全動物標本の慢性記録実験を行う予定であった。行動実験については当初の予定通りモデル動物を作成し、非運動障害の中でも特に味覚/嗅覚障害の有無を確認することができ、実験は順調に進んでいる。一方、モデル動物の孤束核におけるTyrosine Hydroxylase 陽性細胞数が有意に減少したことから、観察された孤束核への病理進展には中枢性と末梢性の両者が関与している可能性が示唆された。そのため、本年度では当初予定していた中枢からの慢性記録と平行して、末梢からの慢性記録を行う実験系を確立する作業を推進した。したがって、中枢からの慢性記録実験については当初の予定よりもやや遅れている状況である。
行動実験については、薬物投与期間を延長し、他の非運動障害および運動障害の有無について引き続き検討していく予定である。また、孤束核のTyrosine Hydroxylase 陽性細胞数が有意に減少したことから、次年度以降では全動物標本の中枢および末梢からの慢性記録実験および脳薄切標本を用いたin vitro 実験を行い、中枢性および末梢性の両観点から本研究を推進していく予定である。
本年度は、味覚行動実験をより詳細に行うことが出来る装置を購入するため、予算を前倒し申請した。当初の予定よりリッキング装置を安価に購入でき、かつ、本年度予定していた中枢からの慢性記録実験がやや遅れているため、当該助成金が生じた。次年度は中枢および末梢からの慢性記録実験を本年度以上に推進していくため、その消耗品に使用する予定である。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
Neuroscience
巻: 379 ページ: 216-218
10.1016/j.neuroscience.2018.03.044
Front. Cell. Neurosci.
巻: 12 ページ: 1-15
10.3389/fncel.2018.00009
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.3389/fncel.2018.00113
http://web.dent.osaka-u.ac.jp/~phys/