研究課題
肥満が変形性関節症(OA)のリスク因子であることはよく知られているが、肥満によって増加した脂肪組織がOAに対してどのような影響を及ぼすのかは未だ不明である。本研究課題の目的は全身の脂肪組織由来のアンジオテンシンII (ANG II)が軟骨細胞にどのような影響を及ぼすのかをin vitro及びin vivoの実験系を用いて明らかにすることである。当該年度では、培養軟骨細胞を用いたin vitroの実験系を中心に解析した。以下にその結果を示す。1.ヒト軟骨細胞様細胞株HCS-2/8、ラット初代関節軟骨細胞、ラット初代骨端軟骨細胞にプロレニン受容体 (PRR)、アンジオテンシン変換酵素(ACE1)、アンジオテンシン受容体(AT1R、AT2R)遺伝子が発現していることを確認し、軟骨細胞自身によるANG II産生の可能性を示唆した。2. HCS-2/8細胞にANG IIを添加すると、ANG IIの濃度に依存して細胞増殖の指標であるPCNAの産生量は増加した。また、軟骨細胞の分化の指標である硫酸化グリコサミノグルカン量も上昇傾向を示した。3. HCS-2/8細胞にANG IIを添加し、anabolic factor であるCCN family protein 2/結合組織成長因子(CCN2/CTGF)及びcatabolic factorであるMMP9の産生量を解析したところ、CCN2はANG IIの濃度に依存して増加し、MMP9の産生量は逆に減少した。4. HCS-2/8細胞において、PRR、ACE1、AT1R、AT2Rの遺伝子発現レベルはCcn2をノックダウンすることで有意に上昇した。これらの結果から全身由来のANG IIではなく、CCN2によって制御される軟骨組織由来の局所のANG IIが、オートクリン/パラクリンに作用して軟骨細胞の増殖と分化を制御していることが示唆された。
3: やや遅れている
平成29年度の研究実施計画では主にin vitro解析に主眼を置いていたため、その点は概ね順調に伸展していると考えている。しかし、ラット膝関節部の内側側副靭帯を切断するOAモデルの作製は未だ成功していない点、及びCRISPR-Cas9システムによるゲノム編集技術を用いて、アンジオテンシンII受容体AT1Rをノックアウトした軟骨細胞の作製には未だ着手できておらず、これらの点を考慮すると、平成29年度の研究進捗状況はやや遅れていると判断した。
平成29年度に着手できなかったCRISPR-Cas9システムによるAT1Rのノックアウト軟骨細胞の作製を急ぐと共にOAモデルラットの膝関節部の組織切片を作製し、AT1R及びAT2Rの関節軟骨組織での局在を調べる。また、1ヶ月齢のTamoxifen誘導性Ccn2欠損マウスにTamoxifenを投与した後に高脂肪食を与えて飼育を開始し、Ccn2をノックダウンしたマウスを肥満状態にした時の膝関節の状態を検討する。
平成29年度の研究実施計画ではCRISPR-Cas9システムを用いたアンジオテンシンII受容体AT1Rをノックアウトした軟骨細胞の作製が含まれていたが、軟骨細胞におけるアンジオテンシンIIの作用を解析するのに、当初予定よりも時間がかかり、CRISPR-Cas9システムによるゲノム編集作業に未だ着手できていない。そのため、ガイドRNA等の作製にかかる費用が次年度に繰り越されている。平成30年度ではすぐにゲノム編集作業に着手し、平成30年度に請求する助成金と合わせて当初の研究実施計画を遂行する予定である。
すべて 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (23件) (うち国際学会 3件) 備考 (1件)
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