研究課題
本申請課題は、膝蓋下脂肪体などの局所の脂肪組織によって産生されるAngiotensin II (Ang II)が軟骨細胞にどの様な影響を及ぼすのか、また軟骨細胞のanabolic因子であるCCN family protein 2 (CCN2)がその作用にどの様に関わっているのかを明らかにすることを目的とする。平成30年度は軟骨細胞に対するAng IIの詳細な作用機構とAng II の合成経路であるRenin-Angiotensin System (RAS)におけるCCN2の発現調節機構を解析した。以下に結果を示す。1. ラット軟骨細胞様RCS細胞にAng IIを添加すると、II型コラーゲン及びアグリカンの遺伝子発現レベルは減少し、Ang II受容体type 1(AT1R)及びtype 2(AT2R)の遺伝子発現レベルは逆に上昇した。2. RCS細胞の培養系にAng IIを添加し続けると、グリコサミノグリカンの蓄積量は有意に減少した。3. AT1R阻害薬であるロサルタンで前処理したRCS細胞にAng IIを添加すると、ロサルタン処理していない細胞に比べてCCN2の産生量は増加し、catabolic因子であるMMP9の産生量は逆に減少した。4. 細胞内シグナル伝達経路の解析では、Ang II刺激によって引き起こされたERK1/2のリン酸化の亢進はロサルタンを添加しても影響を受けなかったが、p38のリン酸化の亢進はロサルタン添加によって減弱した。5. 解糖阻害剤のモノヨード酢酸を用いて軟骨細胞を変性させると、AT1R及びAT2Rの遺伝子発現レベルは有意に上昇した。6. CCN2欠損軟骨細胞ではRAS関連分子の遺伝子発現レベルが野生型の軟骨細胞より有意に上昇していた。これらの結果はCCN2がAng IIの産生を阻害することで、Ang IIによる軟骨変性を抑制することを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度はゲノム編集技術を用いて、AT1R遺伝子をノックアウトしたRCS細胞の作製に着手しており、間も無く完成する見通しである。また、in vivoにおける解析は、生後6ヶ月齢及び1年齢のCcn2欠損マウスを用いて行っており、その結果、Ccn2欠損マウスは野生型マウスと比較して膝関節にOA様の変化がより顕著に見られることを確認した。これらの点から、当該年度の研究進捗状況は概ね順調であると判断した。
2019年度はAT1R遺伝子をノックアウトしたRCS細胞にAng IIを添加し、ロサルタン添加時に得られた表現型が再現できるかどうかを解析する。また、生後6ヶ月齢の野生型マウスには膝関節にOA様の変化が見られないが、Ccn2欠損マウスではOA様の変化が見られることから、これらマウスを用いてAT1R及びAT2Rの関節軟骨組織での局在を解析する。当該年度は本研究課題の最終年度であるため、研究成果をまとめ、論文作成を行う。
平成30年度は、AT1R遺伝子をノックアウトしたRCS細胞の作製に着手し、間も無く完成予定である。しかし、年度内に完成することは困難であり、そのために次年度使用額が生じた。令和元年度では次年度使用額と当該年度に請求する助成金を合わせて、AT1R遺伝子ノックアウトRCS細胞の機能解析及びOA様変化との関連性について解析すると共に本研究課題を通して得られた研究成果を論文にまとめて発表する予定である。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (27件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
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www.okayama-u.ac.jp/user/seika/index.html