研究実績の概要 |
がんはなぜ治らないのか?再発,転移,進行の背景にあるものは? 前立腺癌や去勢抵抗性前立腺癌では正常前立腺細胞と比べて癌促進性タンパク質CDC37が増えていた.これが悪性化の原因と考え,その機構を知るためにプロモーター解析を行ったところジンクフィンガー型転写因子MZF1の結合配列が多数見出された.MZF1がCDC37の転写を正に調節したのに対し,同じSCANドメインタンパク質ファミリーに属すSCAND1は転写を負に調節した.この相反制御機構は,SCAND1がジンクフィンガードメインを完全に欠失しているためである.MZF1→CDC37発現促進は癌促進性シグナルで,SCAND1→CDC37発現抑制は癌抑制性シグナルである(Eguchi T et al 2019 Cancers).
がんのストレス応答・ストレス耐性においても新発見をした.去勢抵抗性前立腺癌細胞を無血清ストレス下で培養すると,発癌性小胞を分泌し,正常前立腺細胞株に上皮間葉転換を引き起こした.この小胞画分から700種以上のタンパク質を同定し,上位にはストレス応答性・ストレス抵抗性タンパク質HSP90が見出された.細胞を熱ストレスに晒すと,HSP90だけでなくGAPDHや直径200~500ナノメートルの小胞や膜が損傷した変形小胞が培養上清に見出され,総じてストレソームと命名した.CDC37プロモーター領域には,ストレス応答を担うHSF1結合配列が存在するため,細胞ストレス応答性にCDC37が増加したが,小分子干渉RNAを用いてCDC37を減らすと上皮間葉転換およびCD9陽性小胞の分泌を減少できた.CDC37とHSP90α/βを三重ノックダウンすると,前立腺腫瘍増大を顕著に抑制できた.
以上の発見は,CDC37およびHSP90に着目して,難治性がん治療のための新たな戦略を提案するものである.
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