研究課題
ある種の扁平上皮癌細胞では、PI(3,4,5)P3関連経路 (PI3K-Akt経路)が活性化しており、これが癌細胞の増悪化の一つの原因と考えられている。最近、我々は、PLC-related catalytically inactive protein (PRIP) が新規の細胞膜 PI(3,4,5)P3 調節タンパク質であることを見出した。そして、PRIPの過剰発現癌細胞株を用いたマウス転移モデルで、PRIPが癌細胞の増殖や転移を負に制御していることを明らかにした。本研究では、PRIPのがん治療薬としての有用性を示す予定であるが、癌化や癌細胞増殖に関連して、PRIPが細胞分裂にも関わっていることが新たにわかってきたのでそちらの解析を優先した。PRIPをノックダウンした細胞では、細胞質分裂異常や遅れが観察された。この時、RhoAやリン酸化型myosin II調節軽鎖 (myosin IIモーター活性を調節するmyosin IIサブユニット)の分裂溝への集積量は減少していた。Lowe oculocerebrorenal syndrome protein 1 (OCRL1, inositol polyphosphate 5-phosphatase)は、分裂溝の陥入終了時のPI(4,5)P2代謝に関わる酵素の一つである。OCRL1の過剰発現は分裂溝のPI(4,5)P2量を減少させたが、PRIPを共発現させると、このOCRL1によるPI(4,5)P2代謝の亢進は抑制された。In vitro co-sedimentation assayの結果、PRIPがOCRL1とPI(4,5)P2の相互作用を抑制することがわかった。これらの結果は、PRIPが分裂溝のPI(4,5)P2の安定維持に必要であり、RhoA-signaling依存的な細胞質分裂の進行に不可欠であることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
PRIPの癌化や癌細胞の細胞周期に関わる研究を先に行い、がん治療薬開発研究も鋭意進めておりおおむね予定通りに進行している。
①膜透過性PRIPあるいはPRIP内包リポソームを添加したヒト乳癌細胞やヒト舌扁平上皮癌細胞で、アポトーシス耐性能、細胞増殖能、細胞移動能、浸潤能が低下することを明らかにする。②免疫不全マウスの皮下に癌細胞を移植し、膜透過性PRIPあるいはPRIP内包リポソームを移植部位あるいは尾静脈に投与することで移植部位における癌の細胞増殖や転移が抑制されるか検討する。③細胞レベルで明らかにしたPRIPの抗アポトーシス耐性作用を、PRIP安定発現癌細胞を用いた転移モデルによって生体でも検証する。④膜透過性PRIPの投与が、アポトーシス(抗癌剤)耐性を示す癌細胞の抗癌剤感受性を増加させるかを転移モデルによって検証する。
予定していた当該年度最終実験を一部優先順位を変更したため繰越金が239,026円生じた。当該実験を進めるために239,026円の繰越金を使用する計画である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件)
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