研究課題
昨年度の結果から、PRIPノックアウト(KO)マウスでの破骨細胞分化能の低下が特に分化の前半(初期)に起因することが示唆されたので、分化のマスターレギュレーターである転写因子NFATc1のシグナリングについて検討した。野生型(WT)およびKOマウスより調製した骨髄由来細胞の分化課程において、NFATc1の上流に位置するカルシニューリンについて見たところ、分化2日目でKOにおいて活性と発現量が減少していた。細胞内カルシウム濃度を測定したところ、WT、KOともに分化刺激後時間経過とともにカルシウム濃度の上昇が見られたが、WTに比べKOでその上昇量の減少が見られた。また、免疫染色では破骨細胞分化に伴うNFATc1の核移行量が減少していた。そこで、細胞内カルシウム濃度を強制的に上昇させたところ、KO細胞における破骨細胞の形成とNFATc1の核移行は回復した。これらの結果より、PRIPは細胞内カルシウム濃度の制御を介してNFATc1シグナル経路を調節することにより破骨細胞分化を正に制御することが明らかとなった。また、KOマウスの出産仔数が少ないこともあり、KOマウス骨髄由来細胞の代替としてshRNAを用いてRAW-264.7細胞のPRIPノックダウン細胞を作製した。作製した細胞の使用を試みたが、PRIPの発現量の減少は認められるものの、期待される表現型(ノックダウン細胞で破骨細胞分化が低下する等)が安定して認められなかったためこれらの細胞の使用は見送り、マウスの交配を増やすなどして引き続き骨髄由来細胞を用いて検討することとした。
2: おおむね順調に進展している
PRIP-KOマウス骨髄由来細胞の代替としてPRIPノックダウン細胞を作製したものの使用には至らなかったが、骨髄細胞を用いた検討により、計画通り、PRIPの関わるシグナル経路について絞り込むことができた。
PRIPノックダウン細胞の使用が難しいため、引き続きマウス骨髄由来細胞を用いて検討を進める予定であるが、マウスの交配や飼育はスペースや費用の面で限りがあるため、より計画性をもって対応する必要がある。破骨細胞分化における細胞内カルシウム濃度の制御に関わるPRIPの作用点を検討するとともに、共存培養による破骨細胞分化でのWTとKOの差異からPRIPの未知の経路への関与の可能性を探る。
今年度は、毎年参加している基礎系の学会が自身の所属学部の主幹であったため様々な係を担当し準備に奔走したため、他の長期出張に及ぶ学会に参加することを控えたことと参加した学会や研究会が自身の大学や近場で行われたため、出張旅費の支出が抑えられた。また、計上していた動物飼育費が、想定外に前年度から引き続き大学の補助により賄われたためその分が次年度に計上されることとなり、総額で上述の次年度使用額となった。その分を用いて次年度は、本来の計画に加えて経費がかかるのことが予想されるリン酸化プロテオミクス解析を行い、共存培養におけるPRIPが関わる未知のシグナル経路の探索を進展させる。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Cell Death Disease
巻: 9 ページ: 1194-1210
10.1038/s41419-018-1257-7
Journal of Cellular Physiology
巻: 233 ページ: 7356-7366
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http://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/306