研究課題
近年、骨と全身の糖代謝が、骨芽細胞の作るタンパク質オステオカルシン(OC)を介して連関する仕組みの存在が明らかとなってきた。我々も、その連関に消化管ホルモンのインクレチン(GLP-1)が介在することを示し、「骨・腸・代謝連関」として、研究を展開している。本研究の目的は、その研究過程で見出した OC が膵 α 細胞におけるグルカゴン産生をインクレチンホルモンであるGLP-1産生へとシフトさせる現象の分子機構を明らかにすることである。平成29年度は計画に従って α 細胞様細胞株 αTC1-6 細胞を用いて OC が α 細胞に直接作用して GLP-1 分泌量を修飾する機序について検討した。OC は GLP-1 産生への変換酵素 PC1/3 の遺伝子発現を促進したが、その作用は培地グルコース濃度などにも影響を受ける傾向を認めた。また PC1/3 の酵素活性を阻害する内在性因子の Pcsk1n 遺伝子の発現が低下する傾向を新たに見出した。一方、αTC1-6 細胞において OC 処理による細胞内 Ca2+ の上昇および cAMP 量の増加は検出できなかった。また、膵 α 細胞の分化マーカーとされる遺伝子の発現量を確認したが、OC による影響を認めなかった。すなわち OC の膵 α 細胞に対する作用は脱分化の促進などを介したものではないことがわかった。これまでの結果を踏まえて今後はPC1/3 発現調節への関与が知られる他の経路について解析を進める。本研究の結果を通じて、骨・代謝連関における膵α細胞の役割を明らかにし、OC による膵α細胞のグルカゴン→GLP-1 変換を応用した糖尿病治療効果向上の可能性を探る。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度に設定した目標:(1) オステオカルシン(OC)がα細胞に直接作用し、GLP-1産生への変換酵素PC1/3発現を上昇させることの確認、(2)OC によって活性化する既知の細胞内シグナル経路のうち InsP3 - Ca2+ 経路および cAMP 経路の関与の有無・程度の確認、(3)膵α細胞の分化の指標となる遺伝子群の発現量からα細胞の未成熟化へのOCの関与を確認、について、順調に研究実績をあげていることからその様に判断できる。 また、当初の目標にはなかったが、GLP-1 産生を抑制する内在性因子 Pcsk1n 遺伝子の発現低下という新たなメカニズムの関与も見出すなどの一定の成果が得られたことなどからも、順調に進捗していると判断できる。
H30 年度は、オステオカルシン(OC)がα細胞に直接作用し、GLP-1産生への変換酵素PC1/3発現を上昇させる機構として想定される細胞内シグナル経路で29年度には検討していないもののうち、PC1/3 発現調節への関与が知られる STAT3 シグナルに着目しながら Pcsk1n の発現調節機構とあわせて α 細胞において OC が機能するシグナル経路同定を目指す。
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