研究課題
近年、骨と全身の糖代謝が、骨芽細胞の作るタンパク質オステオカルシン(OC)を介して連関する仕組みの存在が明らかとなってきた。我々も、その連関に消化管ホルモンのインクレチン(GLP-1)が介在することを示し、「骨・腸・代謝連関」として、研究を展開している。本研究の目的は、その研究過程で見出した「OC が膵 α 細胞におけるグルカゴン産生をインクレチンホルモンであるGLP-1産生へとシフトさせる現象」の分子機構を明らかにすることである。平成30年度は計画に従って α 細胞様細胞株 αTC1-6 細胞を用いて OC が α 細胞に直接作用して GLP-1 分泌量を修飾する機序のうち、関与する細胞内シグナルについて検討した。OC は GLP-1 産生への変換酵素 PC1/3 の遺伝子発現の促進のみならず、PC1/3 の酵素活性を阻害する内在性因子 Pcsk1n 遺伝子の発現低下を促したが、このとき Pax6 遺伝子の発現も低下することを見いだした。Pax6 は Pcsk1n 遺伝子発現の抑制に関与すると報告されていることから、OC は膵α細胞において Pax6 経路を介して GLP-1 産生へのシフトを促すことがわかった。一方、マウスラ氏島を用いた実験についてはノックアウトマウスと同系統のC57BL/6 を用いた実験が進まず、よりラ氏島の調製の容易なddYマウスを用いた実験を試行中である。今後はα細胞で得られた結果のラ氏島実験での検証と、PC1/3 発現調節に関与する細胞内シグナルのより詳細な解析を進める。本研究の結果を通じて、骨・代謝連関における膵α細胞の役割を明らかにし、OC による膵α細胞のグルカゴン→GLP-1 変換を応用した糖尿病治療効果向上の可能性を探る。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度に設定した目標:(1) オステオカルシン(OC)がα細胞において、GLP-1産生への変換酵素PC1/3発現を上昇させる細胞内シグナルの同定、(2)培養膵α細胞で明らかにした現象についてラ氏島を用いた実験でも検証する、について、前述したように(2)の実験で使用するマウスの変更により、想定していたスケジュールより時間を費やした。用いるマウスの系統変更のための、これまでの結果の確認や予備実験は概ね終えているので、当初計画していたラ氏島での実験を早急に進める予定である
H31年度は、培養α細胞を用いてこれまでに得られた実験結果を元に、さらなる詳細な分子メカニズムの解析と、調製ラ氏島を用いた検証実験を行う。結果を集約させて、オステオカルシン(OC)が膵α細胞に直接作用し、グルカゴン産生からGLP-1産生に機能をシフトさせる機序について明らかにする。
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