研究課題
近年、骨と全身の糖代謝が、骨芽細胞の作るタンパク質オステオカルシン(OC)を介して連関する仕組みの存在が明らかとなってきた。我々も、その連関に消化管ホルモンのインクレチン(GLP-1)が介在することを示し、「骨・腸・代謝連関」として、研究を展開している。本研究の目的は、その研究過程で見出した「OC が膵α細胞におけるグルカゴン産生をインクレチンホルモンである GLP-1 産生へとシフトさせる現象」の分子機構を明らかにすることである。令和1年度は計画に従って α 細胞様細胞株 αTC1-6 細胞を用いて OC がα細胞に直接作用して GLP-1 分泌量を修飾する機序のうち、関与する細胞内シグナルについて検討した。蛍光 Ca2+指示薬を用いて細胞内 Ca2+濃度の変動を測定したところ、GluOC単独刺激による細胞内 Ca2+上昇は認められなかった。一方、ELISA法を用いた解析から、GluOCは単独刺激によって細胞内 cAMP の増加誘導が観察された。一方、膵α細胞による GLP-1 産生はインスリンによって増加したことからラ氏島内ではβ細胞からのパラクライン作用を介した相互作用の存在が示唆された。また OC の新たな受容体として報告された Gpr158 と既知の受容体 GPRC6A の発現を調べたところ、αTC1-6 細胞およびマウスラ氏島においては GPRC6A の高い発現は認められたが、Gpr158 の発現はほとんど認められなかったことから、OC による糖代謝には受容体 GPRC6A が主要な働きを演じることが示唆された。
3: やや遅れている
α 細胞様細胞株 αTC1-6 細胞を用いた実験では OC がα細胞に直接作用して GLP-1 産生を誘導するメカニズムについて関与する受容体や細胞内シグナル経路の解明が進んだ。一方、本研究課題は令和1年度が最終年度であったが、前年度にマウスより調製したラ氏島を用いる検証実験において使用するマウスの系統変更のための、それまでの結果の確認や予備実験に時間を要したこと、加えて令和1年度は、所属機関の動物実験施設がマウス感染のために数ヶ月単位で封鎖となったこともあり、予定通り進まなかったことを主な要因として、細胞株を使用した実験結果の急速単離ラ氏島関連の実験が終了しなかった。やむなく研究期間を延期した。
期間を延長した令和2年度は、これまでにα 細胞様細胞株 αTC1-6 細胞を用いた実験で明らかにしてきた OC によるα細胞における GLP-1 産生誘導するメカニズムについて、遅れているラ氏島による検証実験と、引き続きαTC1-6 細胞を用いた遺伝子ノックダウン実験等による検討も加えて、これまで同定している細胞内経路に関する知見、本課題の目的である「OC が膵α細胞におけるグルカゴン産生をインクレチンホルモンである GLP-1 産生へとシフトさせる現象の分子機構解明」を成し遂げる。
上述したように前年度に、使用するマウスの系統変更のための確認・予備実験に時間を要した遅れの影響に加えて令和1年度は、所属機関の動物実験施設がマウス感染のために数ヶ月単位で封鎖となったことと温度湿度管理システム故障により、主にマウスより調製したラ氏島を使用する実験が予定通り進まなかった。本研究課題は令和1年度が最終年度であったが、やむなく研究期間を延期した令和2年度は、急性単離ラ氏島を用い、細胞株で得られた OC 効果のデータに関する検証実験を中心に実験を進め、当初予定の実験を完了させる。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
Journal of Endocrinology
巻: 244 ページ: 285-296
10.1530/JOE-19-0288.
Heliyon
巻: 6 ページ: e03301
10.1016/j.heliyon.2020.e03301
https://www.kyu-dent.ac.jp/research/lecture/oral_pharmacological