近年、骨芽細胞の作るタンパク質オステオカルシン(OC)が、生体の様々な器官に受容体を介して直接作用して機能調節することで全身の糖・エネルギー代謝や脳機能の恒常性に寄与しうることが明らかとなってきた。我々も、OC が消化管ホルモンのインクレチン(GLP-1)分泌を促進し全身の糖・エネルギー代謝の改善する作用があることを見出し、「骨・腸・代謝連関」として、研究を展開している。本研究の目的は、その研究過程で見出した「OC が膵α細胞におけるグルカゴン産生をインクレチンホルモンである GLP-1 産生へとシフトさせる現象」の分子機構を明らかにすることである。令和2年度は前年度までに得られた結果に検証を加え、α細胞様細胞株 αTC1-6 細胞では OC が受容体GPRC6Aを介した直接作用により GLP-1 分泌量を修飾すること、その際惹起される細胞内シグナルとして cAMP 経路が関与する可能性が高いことを確認した。同現象について、より生理的な条件での検討を加えるためにマウスより急性単離したラ氏島を用いて検討を重ねた。その結果、急性単離ラ氏島においても培養細胞株で得られた結果と同様に OC 刺激による細胞内 cAMP 増加と GLP-1 産生への変換酵素 PC1/3 の発現の促進、PC1/3 の内在性阻害因子 Pcsk1n 遺伝子の発現抑制が OC によるグルカゴン産生から GLP-1 産生へのシフトに関与することを示唆する結果を得た。これらの結果は OC が腸上皮細胞のみならず膵ラ氏島内のα細胞からの GLP-1 産生促進を介して効率的に膵β細胞のインスリン分泌機能を増強する機序の存在を提案するものである。
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