研究実績の概要 |
本研究の目的は、上皮ケラチノサイトの上皮-間葉転換(EMT)においてエピジェネティック制御装置(クロマチン修飾および転写因子複合体)がどのように遺伝子発現パターン変化を制御するのか、さらに口腔癌(OSCC)細胞におけるEMT関連遺伝子の発現異常とエピジェネティック制御装置の変異との関連を明らかにすることである。 最終年度は、以下の実験をおこなった。 1. EMTプログラムにおける転写因子SNAI2の機能解析:テトラサイクリン誘導性SNAI2発現HaCaT細胞を用いてドキシサイクリン処理によるSNAI2発現が細胞形態に影響を与えるか検討した。光学顕微鏡での観察およびF-actin染色では大きな形態変化は認められなかった。次にDNAマイクロアレイによりSNAI2依存的な遺伝子発現変化を調べたところ、発現上昇(2倍以上)および発現低下(50%以下)したものが約800スポット検出された。またTGF-β誘導EMTにおける遺伝子発現変化と同様の挙動を示す遺伝子群を見出すことができた。 さらに、RNAiによりSNAI2発現をノックダウンしたHaCaT細胞を作製し、細胞の形態変化や遺伝子発現変化について検討した。 2. 口腔癌(OSCC)細胞におけるEMT関連遺伝子の発現解析:HaCaT細胞のTGF-β誘導EMTにおける遺伝子発現変化と低分化型OSCC細胞(SAS)のEMT関連遺伝子レベルを比較検討した。上皮マーカー(KRT13, TGM1)はEMTおよびSAS細胞において同様に抑制されるが、間葉マーカー(FN1, VIM, CDH2, VIM)の発現パターンは異なることが明らかになった。これまでのクロマチン修飾の解析結果から、EMTおよびSAS細胞でのKRT13遺伝子の発現抑制にはプロモーター領域のヒストンH3K27メチル化が関与することが示唆された。
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