研究課題/領域番号 |
17K11660
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松田 彩 北海道大学, 歯学研究院, 特別研究員(RPD) (60514312)
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研究分担者 |
北村 哲也 北海道大学, 歯学研究院, 助教 (00451451)
東野 史裕 北海道大学, 歯学研究院, 准教授 (50301891)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 腫瘍溶解ウイルス / 抗がん剤 / 口腔がん / HuR |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、口腔がんに対して効果を持つ腫瘍溶解アデノウイルスAdΔE4の腫瘍溶解効果が、抗がん剤、エタノール処理など、ARE-mRNAをより多く核外輸送するシステムの刺激により増強されるか検討を行うことである。われわれはE4領域のタンパクが持つARE-mRNAを核外輸送・安定化する機能が、アデノウイルス(Ad)の複製にも必須であることを見出しており、ARE-mRNAを核外輸送するARE結合たんぱくHuRが核外輸送されるとAdΔE4がより増殖し、細胞溶解効果が高まることをこれまでに示している。 そこで抗がん剤の投与により、HuRの局在が変化するか検討した。まずシスプラチン、5-FU、エトポシドを用いてwestern blot法、免疫染色法により口腔がん細胞SASのHuRの局在を検討した。その結果、抗がん剤で処理した細胞においてcontrolと比較し、細胞質におけるHuRの発現が増加した。この結果より、抗がん剤との併用により、AdΔE4の腫瘍溶解効果が増強することが予測された。次に、抗がん剤とAdΔE4を併用し、XTT assay、CPE assayにより口腔がん細胞と正常細胞で細胞溶解効果を検討した。その結果、口腔がん細胞で抗がん剤の併用によりAdΔE4の細胞溶解効果が増強されたが、正常細胞では細胞為害性が軽度であることが示された。 また、エタノール、GM-CSF、TNF、UVCにより、細胞質におけるHuRの発現が増加し、AdΔE4の併用により、がん細胞において細胞溶解効果が増強されることが示された。 以上の結果より、HuRを核外輸送するシステムと併用することにより、AdΔE4の腫瘍溶解効果が増強されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、我々がこれまで研究を続けてきた腫瘍溶解アデノウイルスAdΔE4の腫瘍溶解効果が、ARE-mRNAをより多く核外輸送するシステムの刺激により増強されるか検討を行うことである。 これまでにシスプラチン、5-FU、エトポシドなどの抗がん剤、エタノール、GM-CSF、TNF、UVCなどの刺激によりARE結合タンパクHuRの細胞質における局在が増加することが示され、HuRを細胞質に輸送する刺激によりAdΔE4の腫瘍溶解効果が増強することが示唆された。 実際にがんの治療に用いられている抗がん剤、GM-CSF、TNF、UVCや、酒類主要成分であるエタノールが腫瘍溶解ウイルスAdΔE4の効果を増強できるということを示したことで、AdΔE4との併用治療の臨床への応用の可能性が期待される。 以上から本研究はおおむね計画通りに進行しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は既存の腫瘍溶解ウイルスとの比較を行う。これまでにE1B55k遺伝子を欠失したアデノウイルスONYX-015(dl1520)が腫瘍溶解アデノウイルスとして知られており、このウイルスとAdΔE4の腫瘍溶解効果を比較する。また、抗がん剤、GM-CSF、TNF、UVC、エタノールとdl1520、AdΔE4の併用時の口腔がんに対するウイルス増殖効率、細胞死を比較する。 また、ヌードマウスに移植したヒトの口腔がんに対するAdΔE4の腫瘍溶解効果が、抗がん剤、GM-CSF、TNF、UVC、エタノール影響下で増強されるか確認する。 ヌードマウスの皮下に口腔がん細胞を移植し、できた腫瘍にAdΔE4を投与することにより腫瘍溶解効果を検討する。具体的には次の様な手順で実験を行う。①ヌードマウス(athymic nu/nu: 6週令)を購入し、1週間順化(馴化)させる、②約107個程度のHSC3を皮下に移植し経過観察する、③直径が10mm程度になったら腫瘍に直接1010 virus particlesのAdΔE4を投与する、④投与後、尾静脈から抗がん剤もしくはエタノールを注入する、⑤3日間連続で投与し2日おきに腫瘍の体積を測定する、⑥3~4週間後終了する。 時間経過とともに変化する腫瘍の大きさをグラフにし、コントロール(AdΔE4のみを投与した群)と比較して、AdΔE4の腫瘍溶解効果の増強を確認する。 これらの検討により、今後の抗がん剤、GM-CSF、TNF、UVC、エタノールとAdΔE4の併用治療の臨床への応用の可能性を示すことができると考えられる。(
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次年度使用額が生じた理由 |
現在、より効果の高いウイルスを作成することを検討中であり、次年度にウイルス作成のため経費がかかることが予測されるため、消耗品のグレードを下げるなど経費を削減し、次年度使用額が生じた。
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