研究課題/領域番号 |
17K11661
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中村 公則 北海道大学, 先端生命科学研究院, 准教授 (80381276)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 自然免疫 / Paneth細胞 / αディフェンシン |
研究実績の概要 |
口腔と腸管は連続している一本の筒であり、口腔細菌が腸管に移行し腸内環境に影響を及ぼすことは容易に想像できる。近年、口腔細菌の肥満や糖尿病などの全身疾患への関与が知られてきている。また、腸管においては共生細菌叢組成の破綻 (dysbiosis)による生活習慣病への関与が注目されているが、いずれもその実態は未解明である。本研究は、口腔細菌が腸管へ移行し、腸上皮との相互作用を介して生体の恒常性維持に密接に関与するとの仮説をたて、その機序を細胞・分子レベルで解明することを目的とする。申請者は腸上皮パネト細胞・αディフェンシンによる腸内環境制御が全身疾患発症の主要因であることを腸上皮三次元培養法やモデルマウスにより見い出しており、これらの手法を格段に発展させ、新たな生活習慣病への疾病予防・治療戦略を提案する。具体的には、腸管上皮培養法としてパネト細胞、内分泌細胞、杯細胞、 吸収上皮細胞そして幹細胞で構成されており生体腸管の構造を模しているエンテロイド培養法を応用する。 エンテロイドは基質に包埋されており、また内腔側が閉鎖構造を保持することから、腸管内腔にアプローチした機能解析を定量的に行うことが難しい。そこで本研究では、初めにマイクロインジェクション法を利用して、エンテロイド内腔へ任意のリガンド投与を可能とする。次にパネト細胞の顆粒分泌を可視化・定量して新たな腸内環境評価法を樹立し、口腔細菌と腸管上皮との相互作用を細胞・分子レベルで解明する。平成30年度は、平成29年度に開発したエンテロイドを用いたin vitro腸内環境評価法(エンテロイド培養法とマイクロインジェクション法を応用してエンテロイド腸管内腔部位へ任意リガンドの投与が可能となる腸内環境評価法)により、菌体成分および菌体がパネト細胞の顆粒分泌を誘導するのかを検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、口腔と腸管における自然免疫機構を介したクロストークが存在し、口腔と腸管のリンクが正常な口腔内環境および腸内環境の維持やその破綻に関与しているとの仮説を立て、口腔細菌によるαディフェンシン分泌さらには内分泌細胞・消化管ホルモン分泌への影響及び、腸内細菌叢組成への関与を検討することで、歯周病や肥満、糖尿病などの生活習慣病をはじめとする全身疾患の発症や進行メカニズムの解明を目的とする。平成30年度は、平成29年度に開発・樹立したエンテロイドを用いたin vitro腸内環境評価法(エンテロイド培養法とマイクロインジェクション法を応用してエンテロイド腸管内腔部位へ任意リガンドの投与が可能となる腸内環境評価法)により、菌体成分および菌体がパネト細胞の顆粒分泌を誘導するのかを検討した。エンテロイド培養液中に細菌由来抗原であるLPS(Lipopolysaccharide)を1, 10, 100 ug/mL 添加したところパネト細胞の顆粒分泌は見られなかった。一方、エンテロイド内腔にマイクロインジェクション法によりLPS1, 10 ug/mLで投与したところ濃度依存的にパネト細胞の顆粒分泌亢進が見られた。このことから、パネト細胞は細菌成分を内腔側の細胞表面に局在するレセプターを介して認識し、顆粒分泌を誘導することが可視化定量的に示された。また、病原菌であるS. Typhimurium ΔphoPをエンテロイド内腔にマイクロインジェクション法により投与するとコントロールであるPBS投与と比較して有意な顆粒分泌量の亢進を示した。このことは、細菌刺激による腸管上皮細胞Paneth細胞の自然免疫機構の可視化に初めて成功したしたことを意味する。
|
今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、樹立したエンテロイド・マイクロインジェクションによる腸内環境評価法により、Lactobacillus caseiなどの腸内常在菌や、口腔常在菌であるStreptococcus mitis、Streptococcus sanguinisなど、あるいは病原菌である Porphyromonas gingivalis、Prevotella intermedia、Actinomyces naeslundiiなどをエンテロイド内腔に投与し、腸管上皮細胞内腔側との相互作用を評価する。さらに、カルシウムバイオセンサーであるYellow Cameleon 3.60 (YC3.60)発現マウスよりエンテロイドを作成し、パネト細胞の細胞内カルシウム動態と顆粒分泌を共焦点レーザー顕微鏡で同時にライブイメージングできるペプチド分泌のメカニズム解析法を樹立し、細菌刺激によるPaneth細胞顆粒分泌メカニズムを解明する。また、細菌刺激物投与後のエンテロイドを細胞単位に分離し、細胞遺伝子解析による分泌メカニズの解析を行う。これにより口腔細菌の腸管上皮への作用機序を細胞・分子レベルで解明する。
|