研究課題
粒子線治療は線量分布に優れていることから重要臓器の多い口腔・頭頸部領域の治療に適しており、治療精度向上のための患者固定用マウスピース型スペーサーは必須である。加えて正常組織を圧排するような形態を付与し有害事象を極力少なくする工夫がされている。しかし、スペーサーによる線量強度変化に関する研究はないことから、スペーサーの素材の違いによる実際の線量強度変化は解明されておらず、現在利用されている水等価厚もあくまで理論値であり実測値から導かれた値ではない。本研究の目的は、市販のスペーサーと歯科用合金の材質の違いによる線量強度への影響を明らかにすることである。歯科用金属として金合金(Au)、金銀パラジウム合金(Au-Ag-Pg)、銀合金(Ag)、チタン合金(Ti)、歯科用スペーサー(高分子合成樹脂)としてポリオレフィン(TPO)、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)を照射対象物とし、頭頸部放射線治療で利用される照射条件で、Cイオン 290 MeV/n、SOBP 5 mm(照射野 7 cmφ)の照射を行った。粒子線の線量強度変化と各照射対象物の実際の阻止能比を算出した。結果として、ブラッグピークの位置は、Au、Au-Ag-Pd、Ag、Tiの順で浅くで浅くなり、これは実効原子番号と密度の差であることが考えられた。また、同じ材質でも厚みが薄いとブラッグピークの位置は金属のないブラッグピークに近づき、この位置移動は厚に反比例していた。スペーサー素材のTPO、EVA、PETの阻止能比はそれぞれ、0.93、0.98、1.25であり、EVAの線量プロファイルは水の線量プロファイルとほぼ一致することが示された。したがって、EVAは粒子線の線量強度に影響せず、粒子線治療に最も最適なスペーサー素材であることが示された。
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Journal of Radiation Research
巻: 62 ページ: 374~378
10.1093/jrr/rrab003