研究課題
近年,上皮間葉転換(EMT)や腫瘍内に存在するEpCAM陽性の癌幹細胞様細胞(CIC)およびエクソソームが,薬剤耐性等の腫瘍抵抗性に関与することが示唆されている.本課題では,口腔扁平上皮癌(OSCC),去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)および転移性大腸がん(MCRC)における腫瘍抵抗性に着目し,「腫瘍内不均一性を反映する新たな薬剤感受性評価システム構築」を進めている.H30年度は,① 転移性の異なるOSCC細胞株に由来するエクソソームのプロテオミクスを実施し,がん細胞生存因子HSP90AlphaおよびHSP90Betaを同定し,臨床検体データベース解析により予後予測バイオマーカーとしての可能性を示した. ② OSCC細胞に由来するエクソソームは,OSCC細胞のEMTを促進しただけでなく,正常口腔上皮細胞株のEMTをも誘導したため,エクソソーム中に癌化因子が含まれると考えられた.OSCCエクソソーム誘導性EMTは,抗EGFR抗体薬セツキシマブによって一部阻害できたものの,セツキシマブがOSCCエクソソームとともに分泌されるという新規薬剤耐性機構を発見した.③ OSCCとCRPCに共通の腫瘍抵抗性分子基盤として,細胞外HSP90の分泌およびEpCAMエクソソームの増加が判明した.④ 単層培養と比較し,生体内腫瘍微小環境を如実に再現しうる腫瘍オルガノイドの作製を進めている.MCRCオルガノイドでは多剤耐性遺伝子ABCG2 / BCRP発現上昇と同時に脂質排出ポンプABCG1の発現上昇を認め,ABCG1によるエクソソーム脂質排出はMCRCの抵抗性および腫瘍形成能を上昇させることが判明した.またマイクロアレイデータベース解析から,ABCG1発現上昇がCRPC,OSCC,および乳癌の予後不良と相関し,予測因子として有用である可能性を示唆した.
1: 当初の計画以上に進展している
① 転移性の異なるOSCC細胞株に由来するエクソソームのプロテオーム解析の結果,がん抵抗性や転移性への関与が示唆されてきたHSP90AlphaおよびHSP90Betaを同定したことで,効率的に研究が進んだ.また,エクソソーム等の細胞外小胞には,細胞外マトリックス,膜輸送因子,癌関連因子,転写因子等も含まれることが明らかとなり,今後の解析が期待される.また,臨床検体データベース解析を駆使して,患者予後と遺伝子発現の相関解析を効率的に実施できるようになった. ② 癌エクソソーム誘導性EMTの発見により,新たな発癌機構および癌進展機構の糸口を示すことが出来た.また,今回発見した「癌エクソソームによる分子標的薬排出」現象は,今後,腫瘍免疫および薬剤耐性機構を調べる上で最重要課題であると目される.③ 癌種に限定されない共通分子基盤として細胞外HSP90およびEpCAMエクソソーム分泌に辿り着き,汎用性の高い指標を確立できた.④ H30年度は特に,腫瘍オルガノイド作製を積極的に進め,In vitroでの生体内腫瘍微小環境の再現へと一歩近づいた.分子レベルでは,長年CICマーカーとされてきたCD44に代わってCD44ヴァリアントが新規CICマーカーであることを示せた.また,多剤耐性遺伝子ABCG2と並行して発現上昇する脂質排出ポンプABCG1がエクソソーム脂質排出に関わることを独自に発見し,研究が加速している.H30年度は,本課題に関して4件の受賞に浴し,新聞掲載されたことから考えて,当初の計画以上に研究が進展したといえる.H30年度に確立したEMT制御機構,エクソソーム機能解析法,およびオルガノイド培養システムは,腫瘍内不均一性を反映する新たな薬剤感受性評価システム構築にとって,飛躍的な前進であるといえる.
腫瘍内不均一性を反映する新たな薬剤感受性評価システム構築のためには,①腫瘍抵抗性に関わる腫瘍微小環境への深い理解,② 生体再現性が高く,高感度・高効率のレポーターシステムの発明,③ 腫瘍微小環境を高いレベルで再現したオルガノイドシステムの作製,④ 感受性・耐性試験を実施する対象薬剤の選択,の4点が必要と考えられる.①については,薬剤耐性や腫瘍抵抗性に関わる細胞として腫瘍関連マクロファージ(TAM)の役割が示唆されている.我々はOSCC細胞から分泌されたHSP90およびエクソソームがTAMに伝達され,TAMの機能を変容させる可能性を見出しており,今後これについて詳細に検討する.②については,種々の癌細胞および腫瘍微小環境を構成する細胞(マクロファージ,線維芽細胞,間葉系幹細胞,血管内皮細胞等)に,エクソソームを標識する蛍光または発光レポーターを恒常的に組み込み,汎用性が高く高感度・高効率のレポーターシステムを作製して本研究を進める.③については,①および②を踏まえてTAMを加えたオルガノイドを作製し,TAM―癌細胞間での分子・エクソソーム伝達による相互分化機構(TAMのM2/M1/M0分化の評価およびCIC特性変化)を評価する. ④については,これまでの研究成果および国内外での関連分野の状況を踏まえ,OSCCおよびMCRC治療に用いられている抗EGFR分子標的薬セツキシマブ,OSCCでも適用された免疫チェックポイント阻害剤に焦点を絞って研究を行う.
消耗品購入予定であったが、次年度に実験遂行となったため、平成31年度物品購入予定。
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