研究実績の概要 |
近年,腫瘍はさまざまな異なる特性を持つ細胞の集団であるという「腫瘍内不均一性」が明らかになっている.一般に,抗がん剤は,単一種類の細胞や分子を標的として開発されるため,ある細胞に奏功しても別の細胞種が生き残ってがんを再発しうる. 我々は,腫瘍不均一性を反映する薬剤感受性評価システムとして,三次元TUMOROIDを開発した.ほとんどの抗がん剤は,二次元単層培養系で開発されてきたが,限界があった.我々は,実際の腫瘍に酷似したTUMOROIDをin vitroで再現し,真に効果のある抗がん剤を開発している. 癌幹細胞は,治療抵抗性の最たるものであるが,我々は,種々の癌腫(大腸癌,前立腺癌,口腔癌)に共通の癌幹細胞マーカーCD326/EpCAMを同定し,TUMOROID形成による発現上昇およびCD326陽性細胞外小胞分泌を明らかにした. 腫瘍表層と内部でも細胞の特徴は大きく異なる.腫瘍表層では,細胞外小胞を介した腫瘍―間質相互作用が起こるが,我々は,MMP3分子を含む細胞外小胞が腫瘍表層から内部へと浸潤・浸透することを明らかにした.また,TUMOROIDは,実際の腫瘍に類似して,腫瘍内部に壊死を認めた(Taha EA et al 2020 Cancers). 腫瘍―間質相互作用機構として,細胞外小胞に含まれて分泌されたMMP3が受容細胞の細胞内および核内まで移行し,CCN2/CTGF遺伝子の転写を活性化することを明らかにした(Okusha et al 2020 Cancers).間質で産生されたCCN2/CTGFは,腫瘍血管新生に関与すると考えられる. TUMOROIDに対してアルテスネイトが奏功したことは一つの概念実証であり(Sogawa et al 2019 Tissue Engineering),ベンツトロピンの奏功は薬剤再開発の実例である(Sogawa et al 2020 Cancers).
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