研究課題
歯周病は末梢炎症を引き起こし、糖尿病などの末梢性疾患のリスクファクターであることが明らかとなっている。近年、臨床および動物を用いた研究により、末梢炎症と中枢機能障害の関連性も報告されている。そこで、歯周病が中枢機能障害を引き起こすリスクファクターとなりうると仮説を立て、歯周病モデルを用いて歯周病による末梢炎症と中枢機能障害の関連性を解明することが本研究の目的である。歯周病菌を含む綿球を臼歯歯髄腔に6週間留置して作製した歯性感染モデルマウスの肝臓と海馬において炎症性サイトカイン(インターロイキン-1β、TNF-α)の遺伝子発現が軽微に上昇した。より強い炎症反応を引き起こす目的で、歯周病原性細菌(Porphyromonas gingivalis)由来のLPS(PgLPS)を腹腔内投与した。PgLPSを投与したマウスでは肝臓および海馬において投与2時間後に炎症性サイトカインの遺伝子発現は上昇し、24時間後に対照群と同程度まで低下した。その一方で、海馬における脳由来栄養因子(BDNF)の発現が低下した。PgLPS刺激により、培養ミクログリア細胞(MG6)における炎症関連遺伝子の発現が上昇した。この培養上清で刺激されたアストロサイトの炎症応答は、PgLPS単独刺激時よりも顕著に増大された。また、抗うつ薬であるイミプラミンの前処置はMG6におけるPgLPS刺激による炎症応答を抑制し、この培養上清刺激によるアストロサイトの炎症応答はPgLPS単独刺激時の培養上清刺激に比して低下した。よって、PgLPSはグリア細胞間の情報伝達を介した脳内炎症を引き起こし、抗うつ薬はこれを抑制する可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
歯性感染モデルによる全身炎症は軽微であったが、PgLPSを投与することで全身炎症及び、脳内炎症を引き起こすモデルを作製した。現在このモデルを用いて行動試験を行い解析中である。また、抗うつ薬は培養ミクログリアにおけるPgLPSによる炎症応答を抑制することで、グリア細胞間の情報伝達を抑制した。これまでに歯周病原性細菌由来のPgLPSを用いた炎症モデルの作製に加えて、in vitroにおいて、抗うつ薬による抗炎症効果を明らかにしたため、おおむね順調に進展していると考える。
本年度は、PgLPSによる炎症モデルを用いた行動実験を行い、歯周病モデルマウスが中枢機能障害様の行動を示すか、また、抗うつ薬投与がこれを抑制できるかを検討する。さらに、このモデルにおいてミクログリアが活性化されているかを検討する。さらに、in vitroにおいて、PgLPS刺激により活性化されたミクログリアの培養上清が神経細胞に対して障害性を示し、抗うつ薬がこれを抑制するかを検討する。加えて、PgLPSによるグリア間情報伝達や神経障害性のメカニズムの解明を分子生物学的手法等を用いて試みる。
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Data in Brief
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