研究課題/領域番号 |
17K11696
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
井上 哲 北海道大学, 歯学研究院, 教授 (80184745)
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研究分担者 |
阿部 薫明 北海道大学, 歯学研究院, 助教 (40374566)
吉田 靖弘 北海道大学, 歯学研究院, 教授 (90281162)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 歯学 / リン酸化プルラン / 歯内療法 / 接着性 |
研究実績の概要 |
1.覆髄・歯髄再生能評価 サル歯髄の前段階として、ラットを用い、歯髄をMTAにリン酸化プルランを混和した試作接着性MTAセメントにて直接覆髄した。コントロールにはリン酸化プルラン、白金ナノコロイド第一世代、白金ナノコロイド第二世代、白金ナノコロイド第三世代を用いた。ラットの歯は非常に小さいため、ヒトに対して用いる歯科器材を用いて実験を行うには熟練された技術が必要とされる。また、組織学的観察を行うにあたっては、学会発表や論文掲載に耐えうる優れた実験試料を作製する必要がある。そこで、本年度はラット歯髄に対する直接覆髄処置方法、実験試料作製方法、組織学的観察方法を確立するため、以下のように行った。ウィスターラットオス8~9週齢にイソフルランによる吸入麻酔後、3種混合注射を行い全身麻酔を施した。その後、上顎左右第1臼歯にスチールバーを用いて近心側から露髄させた。生理食塩水で洗浄、止血確認後、上記の材料をそれぞれ歯髄に貼付し、スーパーボンドにて仮封を行った。0~8週で屠殺し、4%パラホルムアルデヒドにて固定、10%EDTAにて3週間脱灰を行った。その後通法に従いパラフィン包埋を行った。5µmの切片を作製した後、ヘマトキシリン-エオジン染色標本での評価を行った。まずは、将来上記材料が製品化される際の経過を予想するため短期の観察を行った。その結果、短期において上記材料は軽度の炎症反応が観察された。長期においては形成される修復象牙質の形態や質を評価する予定で、現在試料の作製中である。 2.他の材料を主成分とした歯内療法用材料の試作 材料の調整を行い、実用化につながる知見を得た。本材は歯内療法用材料として一部、特許出願を行っているが、周辺特許の充実が不可欠である。さらに本材は、体内埋植など多用途への展開も見込める画期的な組成物であるため、結果については特許出願を考慮して詳細は割愛する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)接着性MTAの調整:リン酸化プルランを配合したMTAセメントを試作し、ラット露髄面に貼付して歯髄の反応を組織学的に評価した。コントロールにはリン酸化プルランや白金ナノコロイドを用いた。研究を遂行するにあたって問題となるのは、ラットの歯は非常に小さいため、歯科治療用切削器具により適切な大きさと形態の露髄を起こし材料を貼付することは、熟練した技術を要することである。歯に用いられる材料であるため、飼育途中に治療に用いた材料が残存歯による影響で脱落することを防ぐ必要もある。また、屠殺後から歯の染色までの過程もラットに合わせた薬品や作用時間を調整することが必須である。平成29年度は、これらの技術を画一化することを目指した結果、本研究を遂行するにあたって必要となる実験系の規格化が可能となった。また、現在までのところ、短期における結果は概ね得られており、今後は長期における結果が待たれる。短期においては上記材料において軽度の炎症反応が示唆された。これは今後患者に応用した際に、治療後の疼痛や違和感を減少させることが考えられ、良好な治療経過につながることが考えられる。長期の結果においては歯髄を保護する硬組織の形成程度や発生頻度が材料毎に異なるかが判明することが期待される。現在材料の貼付までは終了しており、予定した飼育期間に達するのを待っている状況である。予定期間後はただちに染色のための試料作りを行い、学会報告や論文作成を行う。 (2)他の材料を主成分とした歯内療法用材料の試作:研究実績概要の欄に記載したように、材料の調整を行い、実用化につながる知見を得ている。本材は特許出願準備中であるため、それを考慮して詳細は割愛する。 以上の理由より、本研究課題はおおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
(1)接着性MTAの開発:今後は、長期における歯髄被蓋硬組織の形態や形成量を材料間で比較検討を行う。また、免疫染色を行い、発痛物質など治療経過に関連する物質の発生状態・歯髄被蓋硬組織形成にかかわる物質の発生状態を観察し、材料毎の比較検討を行う。現在までのところ歯髄被蓋硬組織の形成機序については様々な考察が存在しているが、未だ不明な点が多く存在する。本研究においては、今後分子生物学的手法や組織学的手法を行い、歯髄被蓋硬組織形成に関わる重要な要素の同定によって、歯髄被蓋硬組織形成機序の解明を行い、それら要素を応用した新規材料の開発の手がかりを探索することも検討中である。また今後、ラットにおける歯髄反応が判明した後、サルでも同様の実験を検討する予定である。新製品を開発・実用化するにあたって、サルなど大型動物での評価は薬事申請上、避けることができない。申請を行う際にその安全性や有用性を動物実験において示す必要があるが、ラットと比較して、サルの場合その遺伝子配列はヒトと類似しており、臨床に即した影響がより正確に行えることが期待される。また、その生体親和性と高い接着性による辺縁封鎖性を利用した根尖部に対する新規材料の開発を行うために、歯髄に対する研究のみならず、将来的に根尖部に対する影響も行うことを検討している。歯科領域の他、人工骨の開発や、様々な組織・臓器の治療に対するドラッグキャリアーとして用いることが可能であると考えられるため、それらの材料の開発の検討も行い、新規産業創出への架け橋となることを今後の研究推進方策として検討中である。 (2)他の材料を主成分とした歯内療法用材料の開発:平成29年度の材料の調整により得た知見を基に、歯内療法用途やその他の用途での実施例を充実させて、特許出願準備を進める。なお、具体的な研究方法や進捗に関しては、特許出願を考慮して割愛する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の進捗状況としては「おおむね順調に進展している」と評価しており、本年度の研究費は実験遂行に必要な実験器具・材料や書籍の購入費、旅費などに使用した。次年度使用額は14549円と本年度の全研究費の約1%であり、問題ないと考える。 発生した当該助成金は次年度交付される助成金と合わせ、消耗品費などとして使用する予定である。
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