研究課題/領域番号 |
17K11698
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
八巻 惠子 東北大学, 歯学研究科, 助教 (90182419)
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研究分担者 |
佐藤 拓一 新潟大学, 医歯学系, 教授 (10303132)
鷲尾 純平 東北大学, 歯学研究科, 講師 (20400260)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 根管内フローラ / 歯内疾患 / パンゲノム / メタゲノム解析 / メタボローム解析 |
研究実績の概要 |
根尖性歯周炎の原因は根管内の細菌感染である。しかし感染根管から検出される細菌は多種多様で、「根尖性歯周炎の病原菌」はいまだ特定されておらず、根管内に棲息する細菌の総量や、細菌集合体であるフローラとして病原性を発揮している可能性がある。本研究では根管内フローラをパンゲノムとして捉え、その構造や機能特性を追及し、口腔内細菌が根管内に侵入、根管壁象牙質に感染し、根尖歯周組織を傷害するメカニズムの解明に努めた。 感染根管治療が必要で東北大学病院の歯内療法科・歯周病科を受診した患者からインフォームドコンセントを得て根管壁象牙質削片を採取、細菌学的に検索した。今年度解析できた3例は、いずれも術前に強い根尖部圧痛を有していたが、1例からは実数カウントでも嫌気培養でも細菌を全く検出できなかった。この症例は、数十年以上前に髄角に近接したレジン充填が施されており、化学的刺激による慢性閉鎖性歯髄炎が徐々に進行し根尖歯周組織に炎症が惹起されたものの、直前まで歯髄が生活していたため根管内への細菌侵入が起こらなかったものと推測された。残り2例からは共通してParvimonas micraが検出され、うち1例ではMogibacterium timidumも検出された。P. micraとM. timidumは根尖部に急性炎症症状を伴う根管から高い頻度で検出され、かつ両者が共存していることも多い、というこれまでの我々の研究調査で認められた傾向と合致していた。 一方、飲みかけのペットボトル容器の蓋および容器内に残った飲料を細菌学的に検索したところ、最初は唾液と似た細菌構成であったが、翌日にはStreptococcus属のみとなり、付着・侵入した細菌間で競合・淘汰が起きることがわかった。これにより、感染根管内でも侵入細菌が競合淘汰して固有のフローラへと成熟していく可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
根尖性歯周炎は根管内の細菌感染が原因で発症するのが定説であるが、歯髄死直前の慢性閉鎖性歯髄炎、すなわち根管壁象牙質への細菌感染が生じていない段階でも同様の症状を発現することを確認した。当該歯のう蝕はレジン充填により治療されており、歯冠側からの細菌感染ルートはなく、歯髄炎から最終的に歯髄死に至った原因はレジンの化学的刺激であると推察した。 我々の過去の研究調査では、根尖部症状を有する根管から高い頻度でParvimonas micraあるいはMogibacterium timidumが検出されたが、本年もまたこれらの細菌が打診痛・圧痛のある根管内に存在しているのが確認され、過去のデータを補強する形となった。 また、飲みかけのペットボトル容器の蓋および容器内に残った飲料から検出される細菌数と細菌種を検索すると、付着・侵入した細菌間で競合・淘汰が起きてフローラが成熟することがわかり、細菌総量の増加や優勢菌種の交代など、根管内フローラも経時的な成熟変化による細菌学的負荷の大きさで評価する必要が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
歯髄死直前の慢性閉鎖性歯髄炎において根尖性歯周炎と同様の臨床症状が発現することを確認したことから、根管内の細菌だけでなく、宿主組織の産生する各種炎症メディエーターも根尖性歯周炎の発症に関与している実態が判明した。無菌的に歯髄死に陥った根管はいずれアナコレーシスにより感染を来すとされており、その際のフローラはう蝕やコロナルリーケージによる感染根管とは異なる細菌構成であるかもしれない。こうした臨床例は限定されるであろうが、解析を進めるにあたり、フローラの細菌構成だけでなくその由来にも着目していく。 口腔内フローラのプロフィールは個人差が非常に大きく、感染根管内のフローラは根管という特殊環境内でさらに選択淘汰を経て定着した菌で構成される。その中でParvimonas micraおよびMogibacterium timidumという根尖部症状との関連が示唆される菌種が判明したことは有意義であり、宿主すなわちヒトの組織・細胞に対するP. micraとM. timidumの起炎性を追究していく予定である。 またそもそもどのような細菌が根管に定着しやすいのか、口腔内フローラのプロフィールとも比較検証が必要と思われ、根管内だけでなく唾液やプラークからもサンプルを採取、メタゲノム解析で明らかにしていく。臨床では根尖部症状の認められない感染根管も多く、根尖部症状は根管の細菌学的負荷が宿主の組織・細胞のストレス閾値を超えると発症するものと思われる。フローラのプロフィール分析だけでなくメタボローム解析へと発展させ、フローラが生体組織にどのような影響を及ぼしているか検討していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
サンプル解析に必要な試薬が高価であることから、次年度に向け、試薬の使用期限を考慮して廃棄することのないよう必要量を計画的に購入するために残額ゼロとはならなかった。
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