研究課題/領域番号 |
17K11698
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
八巻 惠子 東北大学, 歯学研究科, 助教 (90182419)
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研究分担者 |
佐藤 拓一 新潟大学, 医歯学系, 教授 (10303132)
鷲尾 純平 東北大学, 歯学研究科, 講師 (20400260)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 根管内フローラ / 歯内疾患 / パンゲノム / メタ16S解析 / V3-V4領域 / メタゲノム解析 / メタボローム解析 |
研究実績の概要 |
根尖性歯周炎の原因は根管内の細菌感染である。しかし感染根管から検出される細菌は多種多様で個人間、症例間で大きく異なり、「根尖性歯周炎の原因菌」は未だ特定されていない。次世代シーケンサーの登場によりフローラの網羅的解析が可能となり、構成菌種や系統分析、発現機能に関する情報が得られるようになった。本研究では根管内フローラをパンゲノムとして捉え、その構造や機能特性を追究し、口腔内細菌が根管内に侵入、根管壁象牙質に感染する過程でどのような選択圧がかかるのか、またフローラにいかなる機能が発現し根尖部歯周組織を傷害しているのか、実際の臨床症例から根管壁の感染象牙質を削片の形で採取したものを試料とし、検索する。 感染根管治療が必要で東北大学病院歯内療法科・歯周病科を受診した患者からインフォームドコンセントを得て初回治療時の根管壁象牙質削片を生理食塩水に採取、機器を用いて試料中の細菌数や生菌/死菌数を直接計測した。また嫌気培養を通じてCFUを算出後、単離したコロニーを継代培養、16S rRNA遺伝子増幅によりシーケンスを求め、細菌種の同定を試みた。メタ16S解析は16S rRNA遺伝子のV3-V4領域をターゲットとすることとし、感染根管フローラの特徴を口腔内フローラと対比するのに、唾液とプラークも検索対象とした。唾液やプラークからの細菌DNA抽出法を参考に、象牙質削片という微量サンプルに含有される細菌のDNAを、確実かつ高い純度で抽出するプロトコールを現在検討中である。 哺乳瓶に残ったベビーミルク中の細菌を培養法と16S rRNA遺伝子配列を基に検索すると、飲料中に口腔内細菌が移行し、その細菌構成は唾液と類似すること、4℃で3時間経過しても細菌量・細菌種がほとんど変化しないことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
日常の臨床では、試料採取より急性症状への対応を優先しなければならない、あるいは根管にアクセスするために機械的・化学的侵襲が必要でフローラを修飾してしまう、複数根管を有するため細菌と臨床症状との相関を検証する際に疑義を生じかねないなどの理由で、検索事例がなかなか集まらない。 さらに、症例により根管の太さ、汚染度合がまちまちで、根管壁象牙質を削去するのに非常に細いファイルを用いなければならないことがある一方、再治療症例では太いファイルに頼らないと根管壁から削片採取できない場合もある。いきおい、採取された象牙質削片量に多寡があり、しかも汚染の度合いにより削片中の感染細菌数も非常に異なる。そのため各臨床試料から抽出できるDNA量が大きくばらつき、現在、統一プロトコールでMiSeq解析するために、PCR反応系にロードするテンプレートDNA量を模索中である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、日常診療の場で、インフォームドコンセントのもとサンプルを採取できる臨床症例の発掘に努める。また、採取した象牙質削片試料から、MiSeqで解析するのに十分かつ純度の高いDNAを得るためのプロトコール確立に注力する。採取時の注意点として、ファイル太さに応じた削去回数、採取に用いるファイル本数、旧根充材など象牙質以外の根管内異物の混入などに注目する。またDNA抽出時の工夫として、プラークや唾液の処理法と対比させながら、DNA抽出試薬を作用させる場合の最適な処理法、混合比を探究する。 MiSeq解析で得られた結果から、感染根管フローラの構成菌種、系統樹分析、機能予測を行い、唾液やプラークのフローラと比較対比することにより、感染根管の成立機序、根尖歯周組織への為害作用などについて考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
検索に適した臨床症例に遭遇する機会が少なく、統計学的に有用な結果を得られないと判断したため、研究期間を延長、検索事例を増やし、サンプルがある程度集まってから、96プレートを用いて一括して解析することとした。そのため本年度は、ゲノム解析に必要な高額試薬は使用期限を考慮して購入を控え、次年度に購入予定である。
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