研究課題/領域番号 |
17K11699
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
兼平 正史 東北大学, 歯学研究科, 助教 (30177539)
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研究分担者 |
石幡 浩志 東北大学, 歯学研究科, 助教 (40261523)
高橋 英和 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (90175430)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 象牙質透過性 / 知覚過敏 |
研究実績の概要 |
知覚過敏処置後の臨床症状が短期間のうちに再発現する後戻りについては多くの歯科医が経験しているにもかかわらず、原因ならびに再発のメカニズムについていまだ解明されていない。理由として、症状が本人の訴え以外に客観的に捉える事ができない事、プラセボ効果により症状のマスキングが発生する事があげられ、この事がin vivo解析およびin vitroシミュレーションを困難にしている。我々は象牙質透過性を光化学を応用して定量的に計測する方法を開発し、知覚過敏抑制材の効果と処置後の後戻りについて報告してきた。さらに、微細な象牙細管の露出が知覚過敏症状に強く影響する事を考慮し、狭小範囲の解析を目的としたマイクロフローセンサーを計測装置に導入した。本研究ではさらに精度を高めるため新規のナノフローレベルでの解析装置を作製し、象牙質知覚過敏の特徴とされる急激な象牙細管内液の移動に伴う象牙質透過量の動態と並行して知覚過敏抑制材の微細形態学的解析を行う事で、その効果が時間と共に変化するプロセスを解明し実効性がある知覚過敏抑制法を確立する事を目的としている。 令和1年度では、液体の移動により発生するごく微量の温度変化をナノレベルで捉える事ができるフローセンサーを導入した装置を用い、検知能力および再現性を随時解析しながら人工唾液を用いた口腔内環境シミュレーションモデルにて、人工唾液の成分、リン酸カルシウム系知覚過敏抑制材および試作の材料について検討を行った。また、口腔内の急激な温度変化をシミュレートする実験モデルの構築には、環境のコンプライアンスを考慮する事が必要であるが、本研究では試片部分にのみペルチェ素子等で急激な温度変化を与えられる構造とした実験系を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光化学反応を応用した象牙質ディスク透過性測定モデルでは、化学発光の強度を時系列的に計測する事で試料の透過性を表していた。この装置は簡便かつ鋭敏に液の移動を補足できたが移動量の実測値表示は困難であっため、ナノレベルでの液移動を感知する新規フローセンサーを装置に組み込んだ。この事により分解能は格段に向上したものの実験環境にも敏感であったため、データの再現性を考慮した象牙質透過性測定のための条件構築を行ってきた。 リン酸カルシウム系知覚過敏抑制材は、最終生成物である生体親和性の高いハイドロキシアパタイト(HA)での象牙細管封鎖が期待できる。HAの象牙細管内結晶化は処置後の後戻りを防止する上で効果的だが、初期の粒径生成に4~6時間必要とするため、時間短縮が臨床的に重要となる。HAの結晶化反応促進のための生成速度、成分比、付加成分や環境要因等については外部からの成分添加が効果的であったという結果をふまえ、特に唾液成分のCa/P比の影響について検討を加えた。これらの事を試作透過性抑制材と組み合わせて透過試験に供し、表面分析と形態学的観察の結果と併せて解析を行った結果、促進の可能性が示唆された。 また、象牙質知覚過敏では象牙細管内液の急激な移動と疼痛発現に深い関連性があることから、その状態をシミュレートした評価法を考案した。本実験モデルでは高い再現性の獲得のため、特に実験環境の変動要因を厳密に排除する事が求められる。ペルチェ素子は、装置の小型化が容易、振動がない、高精度・高応答性の温度制御に適するなどの特徴があるが、本研究では試験片部分にのみペルチェ素子で温度変化を与える実験装置を考案した。この事により急激な内液移動を与えた際のナノフロー観測が可能となり一部の試片で解析を試みた。これと並行して象牙質表面および細管内部の状態について分析を進めておりほぼ計画どおりと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で改良を重ねてきたナノフローセンサーを用いた象牙質透過性シミュレーションモデルを用い、リン酸カルシウム系知覚過敏抑制材および試作の材料についての検討を引き続き遂行する。令和1年度に再構成した実験系では、口腔内をシミュレートして急激な温度変化を試験片部分にのみペルチェ素子で与える実験装置を考案し、基本的な象牙質透過性のデータ計測を試みた。しかしながら、本実験系では当初の予想とは異なるフロー挙動を示したために、急激な温度変化に対するナノフロー変化について、細管の微細構造、結晶生成速度や結晶構造との関連性を考慮しながら解析を引き続き行う。その際、光化学を応用した計測法と比較する事でデータの信頼性を確認しながら実施する。この口腔内の急激な温度変化をシミュレートする実験系での解析を追加して、透過性抑制効果の発現や破壊の過程を分析する事でより効果の高い知覚過敏抑制材開発のための条件解析を詳細に行う。 また、ハイドロキシアパタイトへの結晶化反応促進については、環境要因である外部からの成分添加、特にCa/P比の影響について重点を置き検討を加え、表面分析と形態学的観察の結果と併せて解析する事で象牙質透過性抑制材開発の基本的な要件獲得を目標とし、得られた結果については発表を予定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金が生じた主な理由は、消耗品の使用が予定より少なかった事、既存の消耗品が利用できた事、想定していた価格より物品を安価に購入できた事、一部代用品を使用して効率的に使用できた事による。当初の計画を延長した次年度についても引き続き助成金を効率的に使用するとともに得られたデータの発表を予定しており適切に使用していく。
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