知覚過敏処置後の臨床症状が短期間で再発現する後戻りについては多くの歯科医が経験しているにもかかわらず、原因ならびに再発のメカニズムについていまだ解明されていない。我々は象牙質透過性を光化学を応用して定量的に計測する方法とマイクロフローセンサーを計測装置に導入して解析を続けてきた。本研究ではさらに精度を高めたナノフローレベルでの解析装置を作製し、象牙質知覚過敏の特徴とされる急激な象牙細管内液の移動に伴う象牙質透過量の動態と並行して知覚過敏抑制材の微細形態学的解析を行う事で、その効果が時間と共に変化するプロセスを解明し実効性がある知覚過敏抑制法を確立する事を目的とした。 リン酸カルシウム系知覚過敏抑制材は、生体親和性の高いハイドロキシアパタイト(HA)での象牙細管封鎖が期待できる。HAの象牙細管内結晶化は処置後の後戻りを防止する上で効果的であったが、粒径生成に4~6時間必要とした。結晶化反応促進には成分添加が効果的との結果からCa/P比の影響について検討を加え、この事と試作透過性抑制材を組み合わせた表面分析と形態学的観察を併せて解析を行った。また、象牙質知覚過敏では象牙細管内液の急激な移動と疼痛発現に深い関連性がある事から、その状態をシミュレートしたペルチェ素子を組み込んだ評価法を考案した。本研究ではその特性を生すため試験片部分にのみ温度変化を与える装置としたが、高い再現性獲得には特に環境の変動要因を厳密に排除する事が求められた。予備実験ではベルヌーイの定理からは説明できないデータが得られたため試料数を増やして解析を続けたが、新型感染症の影響を受け統計学的に有意な結果を得るまでには到らなかった。ベルヌーイの定理では流体は大きく二つのタイプに分類される。本実験結果から、生物学的な個体差や石灰化の進行度による粒径の大きさや分布についてさらなる検討を加える必要性が示唆された。
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