研究課題/領域番号 |
17K11701
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
高垣 智博 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (60516300)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ポリロタキサン / レジンセメント / 接着強さ |
研究実績の概要 |
申請者らの研究により開発された、光分解性PRX架橋剤を用いることで、可視光照射にて硬化し、紫外光照射で分解するレジン硬化体を作製する技術を応用し、着脱が可能な新規接着性レジンセメントの基礎技術を開発することが本研究の目的である。昨年度においては、各種配合比にて作製した試作レジンセメントの硬化反応の追跡を実施し、成果を日本歯科保存学会にて発表を行った。本年度は、研究計画に従い、試作レジンセメントを用いた歯質接着性能の可逆性の評価を実施した。 具体的には、試作レジンセメントを用いた微小引張り接着試験を1)PMMAブロック同士を接着した場合2)PMMAブロックと牛歯象牙質とを接着した場合の2通りで実施し、どちらにおいても10%以上の光分解性PRX架橋剤をレジンセメントに配合することで、紫外光照射後に接着強さが有意に低下することが確認された。また、昨年の学会報告において、光分解型でないPRX架橋剤においての接着性能の確認の必要性を指摘されており、こちらに対応するために、光分解性を有さないPRX架橋剤を、同様に各種濃度で配合した際に、10%配合したレジンセメントにおいても、初期接着強さは有意に低下せず、また、紫外光照射前後でも接着強さに変化がみられないことを確認した。 また、最終的な臨床における製品に近い状態での評価を実施するために、牛歯エナメル質における歯科矯正用ブラケットの接着試験を模したせん断接着試験を実施し、臨床に近い状況でも紫外光による可逆的な接着レジンセメントが機能することを確認した。 これらの評価を基に、国際学会にての発表を予定しており、2019年6月に発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らの研究により開発された、光分解性PRX架橋剤を用いることで、可視光照射にて硬化し、紫外光照射で分解するレジン硬化体を作製する技術を応用し、着脱が可能な新規接着性レジンセメントの基礎技術を開発することが本研究の目的である。 光分解性PRX架橋剤を用いた試作レジン硬化体での物性変化はすでに確認されていたものの、接着性レジンセメントへの適切な配合量は検討が必要であった。そこで本研究では、従来型レジンセメントのモノマーに対して異なる配合量の光分解性PRX架橋剤を配合した試作品を用い、第一段階としてはレジンセメント硬化体の基礎的な物性試験ならびに硬化反応の光分解性の検討を実施した。至適な配合比の候補を決定し、候補を絞り込んだ後に、実際にヒト抜去歯を用いた歯質接着性の可逆性の評価を実施したいたが、PMMAブロック同士の接着試験の結果から、光分解性PRX架橋剤を10%配合することで、初期接着性能を棄損せず、また紫外光照射にて接着強さが低下することが確認された。 その結果を踏まえて、本年度は牛歯エナメル質において、臨床での応用を想定した歯科矯正用ブラケットを用いたせん断接着試験を実施することができた。また、その成果から、10%光分解性PRX架橋剤を配合したレジンセメントは、基礎的な微小引張り接着強さの結果と同等に、可逆的な接着性能を示すことが確認された。これまでに国内学会にて第1報は報告済であるが、進捗した内容で国際学会での発表を予定しており、計画時に予定していた程度に、本研究は進捗していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究においては、光分解のためのUV-LED光照射器の検討が不可欠である。UVC領域(波長280nm以下)での光分解性能はすでに検討しているが、臨床応用を進めるためより安全な波長域のUV-LED光照射器を用いる必要がある。皮膚科などで医療機器としてすでに応用されているUVA領域(波長315-400nm)での基礎的実験の結果、本研究で用いる光分解性PRX架橋剤は350nmの近紫外光でも分解することが明らかになっているものの、その分解反応と生体安全性を両立させる波長域はまだ決定できていない。研究協力者である日機装株式会社からすでに試作LED照射器の提供を受けていたが、さらに照射光強度を向上させた試験用の照射器を作成しており、本年度は微小引張り接着試験を試作各波長域LED(265nm, 285nm, 300nm, 340nm)にて実施し、これまでの結果から得られた試適濃度である0%光分解性PRX架橋剤配合レジンセメントにて、照射光の波長域が接着強さに及ぼす影響について検討する。 また、申請者らの以前の報告(ACS Macro Letters 2015)の手法に従い、Gel Permeation Chromatography (TOSOH HLC-8320GPC)を用いて、モノマーの光分解性を各波長UV-LED光照射器にて検討し、引張り試験の結果と光分解性PRX架橋剤の分解との相関性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画においては、国際学会発表を2年目に実施する予定であったが、開催予定が3年目の6月となったため、必要な旅費を次年度に繰り越した。 また、Gel Permeation Chromatography(GPC)装置による解析を3年目で実施するため、その使用に必要な予算を確保するために必要な費用を次年度に繰り越した。 これらの費用を国際学会発表旅費ならびに解析に必要な費用に充当し、予定通り3年間で本研究を遂行予定である。
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