研究課題/領域番号 |
17K11717
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
武市 収 日本大学, 歯学部, 准教授 (10277460)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Epstein-Barrウイルス / 難治性根尖性歯周炎 / 歯根肉芽腫 / 歯周病原菌 / 再活性化 / Fusobacterium nucreatum / Prevotella intermedia |
研究実績の概要 |
目的:潜伏感染したEpstein-Barrウイルス(EBV)の再活性化における難治性根尖性歯周炎関連細菌の関与を明らかにすること。 1)供試試料:難治性根尖性歯周炎と診断された患者22名から、歯内外科療法の際に根尖病巣組織を摘出した。また、完全埋伏智歯(10例)の抜去の際に切除した健常歯肉組織をコントロールとした。 2)病理組織学的検索:病理組織学的検索の結果、根尖病巣組織の18例(81.8%)で幼弱な毛細血管に富み、多数の炎症性細胞浸潤を伴う肉芽組織を認めたため、歯根肉芽腫と診断した。この出現頻度は既知の報告と類似していた。残りの4例には重層扁平上皮とコレステリン結晶を認めたため、歯根嚢胞と診断し、本研究から除外した。 3)定量的なEBVおよび難治性根尖性歯周炎病原細菌の検出:① 検量線の作製:EBVまたは難治性根尖性歯周炎病原細菌(Fusobacterium nucreatum、Prevotella intermedia)を培養し、DNAを抽出したのち、EBVのコピー数または細菌の細胞数を算出した。それぞれ10倍ずつ段階希釈したのちreal-time PCR法を行い、検量線を作製した。②EBVと細菌の検出:供試試料中のEBVおよび細菌のDNAを、検量線を元にコピー数を算出したところ、健常歯肉では検出できなかったが、歯根肉芽腫全例から標的DNAを検出したため、歯根肉芽腫に浸潤したB細胞にEBVが感染していることが示唆された。 4)潜伏感染EBVの再活性化の検討:BZLF-1のルシフェーラーゼアッセイを行うため、BZLF-1発現ベクターを作製した。すなわち、BZLF-1のプロモーター領域を制限酵素で消化したのち、ルシフェラーゼ プラスミドに挿入し、B95-8-221細胞に遺伝子導入した。次年度はEBVの再活性化を促す因子について検索する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は、長年難治性根尖性歯周炎患者を対象とした研究を行っており、特に免疫学的、分子生物学的、細菌学的手法を用いて根尖性歯周炎の病態解明のための研究を継続している。また、近年ではウイルスの研究も精力的に行っていることから、本研究を遂行するための研究手法は全て熟知している。また、研究計画に沿って、年間のスケジュールを構築したため、遅滞なく研究を行うことができた。以上のことから、研究を順調に遂行することができたものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
1)平成29年度に実施した研究は、当初の計画通りに実施したため、貴重な知見を得ることができた。すなわち、健常歯肉では確認できなかったEBVや難治性根尖性歯周炎関連細菌が、歯根肉芽腫では有意に感染しており、炎症に大きく関与している可能性が示唆された。平成30年度は、得られた知見を確認する目的で、さらに供試試料数を増やして、同様に歯根肉芽腫中のEBVおよび難治性根尖性歯周炎関連細菌の感染を確認する。 2)EBVはB細胞に潜伏感染し、再活性化するとEBVが感染したB細胞はBZLF-1遺伝子を発現する。すなわち、BZLF-1はEBV再活性化の指標となる。そのため、BZLF-1のルシフェラーゼアッセイを行い、BZLF-1活性が上昇すれば、EBVの再活性化を促すと結論付けることが可能となる。平成29年度にBZLF-1のプロモーター領域をルシフェラーゼプラスミドに挿入し、B細胞に導入した。そこで、平成30年度はこの細胞を使用し、難治性根尖性歯周炎関連細菌が潜伏感染EBVを再活性化するかを検討する。難治性根尖性歯周炎関連細菌の産生する短鎖脂肪酸(n-酪酸、iso-酪酸、酢酸、葉酸、乳酸、コハク酸、n-吉草酸、iso-吉草酸、プロピオン酸)の量を高速液体クロマトグラフィーで定量する。次いで、細菌の培養液を用いてBZLF-1ルシフェラーゼアッセイを行い、EBVの再活性化に関与するかどうかを検索する。 3)EBV感染B細胞であるDaudi細胞を用いて、EBV再活性化のトリガーとなる短鎖脂肪酸の特定を行う。BZLF-1遺伝子が発現するとZEBRAタンパクを発現するため、EBV再活性化の指標の一つとなる。そこで、短鎖脂肪酸を用いてDaudi細胞を刺激し、ZEBRAタンパクの発現が誘導されるのはどの短鎖脂肪酸であるかを特定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入したDNA抽出用試薬やreal-time PCR用試薬の値引き率が高く、予想外に余剰金が発生したため、次年度使用額が生じた。 今年度は、昨年度に引き続いて供試試料(根尖性歯周炎患者の根尖病巣組織)の数を増やす必要があり、継続して試料の採取を行う予定である。できる限り多くの試料を採取し、病理学的検索やEBVの検出を行うための試薬を購入することを予定している。
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