研究課題/領域番号 |
17K11721
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研究機関 | 神奈川歯科大学 |
研究代表者 |
富山 潔 神奈川歯科大学, 大学院歯学研究科, 准教授 (90237131)
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研究分担者 |
向井 義晴 神奈川歯科大学, 大学院歯学研究科, 教授 (40247317)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | polymicrobial biofilm / S-PRG filler / sweetner / sucrose / xylitol / aspartame / advantame |
研究実績の概要 |
目的)齲蝕病原生菌の含有量が異なる多菌種入りバイオフィルム(PMバイオフィルム)の形成および代謝に対するアミノ酸系人工甘味料の影響を分析した.アスパルテームは,フェニルアラニンのメチルエステルとアスパラギン酸1がペプチド結合した構造を持つジペプチドのメチルエステルであり,ヒトやサルの腸で,メタノール,アスパラギン酸,フェニルアラニンに代謝され,吸収された後に、タンパク質に併合されてから二酸化炭素として排出されることが報告されている(Trefz F et al., 1994).アドバンテームは、既存の甘味料であるアスパルテームと3-ヒドロキシ-4-メトキシ-フェニルプロピオンアルデヒドとの還元アルキル化反応により合成されるジペプチドメチルエステル誘導体である.人工甘味料は歯垢形成を起こさず,う蝕の原因となりにくいとする報告が数多く認められるが,本研究の目的は,アミノ酸系人工甘味料であるアスパルテーム、アドバンテームを与える環境、与えない環境が,バイオフィルムのう蝕原性に及ぼす影響を検討することである. 実験群)実験群は,① no sweetener 群 (cont),②0.2% sucrose 群 (suc),③ 0.2% xylitol 群 (xyl),④ 0.2% aspartame 群 (asp),⑤ 0.2% advantame 群 (adv)の5群とした. 結果)A群(低う蝕原生群)とB群(高う蝕原生群)のcontの平均pH値間に差は認められなかった. A群では,suc群とxyl, asp群のpH間に有意差が認められたがB群では,suc群とasp間のpH間のみに有意差が認められた.また72時間の時点では,すべての群の生菌数間に差が認められなかったが,192時間では,contとsuc群間に差が認められ,contは72時間の時点に比べ,192時間の生菌数は増加していた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
29年度の目的は,病原性の異なる初期う蝕病巣モデルを開発し,再石灰化に有効な新規抗菌療法をTMRで分析,開発することであったが,それ以上の初期う蝕モデルを開発することができた.すなわち,低病原性および高病原性のバイオフィルムモデルを開発し、それらが供給する糖の種類の違いによって、異なる代謝を再現させることができたからである.また,本研究の29年度における結果が,好気性下における口腔内プラークの生菌数に関するPlos oneにおける報告が,必ずしもその通りとはならない可能性があることを強く示唆した点も,29年度における当初の研究目的以上の成果であると考える.本研究の実験群が、,① no sweetener 群 (cont),②0.2% sucrose 群 (suc),③ 0.2% xylitol 群 (xyl),④ 0.2% aspartame 群 (asp),⑤ 0.2% advantame 群 (adv)の5群であることを踏まえて実験結果および考察を以下に示す. 今回の研究成果は、齲蝕原生の低い唾液由来のバイオフィルムを用いたsucとxyl, asp群のpH間に差が認められ,う蝕原生の高いバイオフィルムでは,asp群のみが,suc群に比較し有意にpH値が上昇した. これは,アスパルテーム由来のアスパラギン酸などの成分がバイオフィルム中の特定菌のアンモニア産生を促進することによりう蝕原性を抑制した可能性がある.また,好気性下では,脱窒素,アンモニア産生に続きクオラムセンシングが減少し,生菌数がプラトーに達することが報告されているが,嫌気性条件下においては,その限りではないことが示された. 糖分の違いにより異なった動態を示すバイオフィルムモデルを発明できたことから,今後,う蝕原生を整えて初期う蝕病巣を再石灰化へと導く手助けとなる抗菌薬の開発のための研究の一助となるものと考えます.
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今後の研究の推進方策 |
ポリマイクロバイアル (PM) バイオフィルムモデルは,口腔内の細菌叢を口腔外で再現し,抗菌剤や抗菌材料などの効果を迅速に分析するために有用である.今後の研究目的はバイオフィルムが病原性を高めていく過程において,これをむやみに滅するのではなく,病原性の低いバイオフィルム環境となるよう,バイオフィルムの細菌叢および代謝状態を整えることのできるような抗菌薬あるいは抗菌法を開発することである. 【実験材料および方法】 [PMバイオフィルムの形成]:24時間嫌気培養(CO2:10 %,H2 :10 %,N2:80 %,37℃)によりPMバイオフィルムを形成し,実験群は ① 脱イオン水処理群(cont),② 0.2 %グルコン酸クロルヘキシジン群(0.2C),③ S-PRG溶出液処理群(SPRG)の3群とする. [実験1]:ガラス円板上に形成された24時間培養後のPMバイオフィルムに対し30分間の各処理を行なった後,生・死全細菌検出用の蛍光試薬としてLIVE/DEAD BacLight Bacterial Viability Kit(Invitrogen)を用いて,暗所,室温下で30分間反応させ,共焦点レーザー顕微鏡により生・死全細菌の分析およびバイオフィルム構造を観察する.生・また使用済み培養液のpHも測定する.[実験2]:24時間培養後のPMバイオフィルムに30分間の各処理を行なった後, バイオフィルム群集構造の網羅的分析を行なった.次世代シークエンサー(MiSeqTM, Illumina, USA)による網羅的分析は,バイオフィルムからDNA抽出後 (MORA-EXTRACT kit),16S rDNAを標的とし,プライマーとしてPro341F-Pro805Rを用いて,次世代シーケンス・アンプリコン解析を行なう.
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次年度使用額が生じた理由 |
各抗菌剤処理後のポリマイクロバイアルバイオフィルム細菌叢を分析するにあたり, 歯周病原菌の割合が少ないことが次世代シークエンス分析により明らかとなり,real time PCRによる歯周病原菌の一部の分析が必要なくなったため、次年度使用額が生じたものである.
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