研究課題
本研究は,インターロイキン22 (IL-22) が歯根嚢胞の病態形成に及ぼす影響を明らかにし,その制御の可能性を探ることを目的とした。昨年度までに,ヒト歯根嚢胞の病巣局所において IL-22 およびそのレセプター (IL-22R) の発現を確認し,歯根嚢胞の手術摘出組織から細胞株を樹立した。今年度はこれらの細胞株の特徴を評価した。はじめに,樹立した歯根嚢胞由来細胞株の IL-22R 発現を mRNA レベルおよびタンパクレベルで確認した。細胞株によって発現レベルは異なるものの,すべての株で IL-22R 発現が検出された。これらの細胞株は,間葉系幹細胞のマーカーである CD44 (ANPEP),CD73 (NT5E),CD90 (THY1),CD29 (ITGB1),CD13 (ANPEP) および CD105 (ENG) を高発現していた。特に,IL22 存在下で培養した時には,ENG,ITGB1 および ANPEP mRNA 発現レベルが高い傾向があった。さらに,間葉系幹細胞に関連する遺伝子発現量をアレイキットで網羅的に評価したところ,IL22 刺激によって発現レベルが上昇する複数の遺伝子,COL1A1 (collagen type I alpha 1),NOTCH1 (notch 1) などが明らかになった。これらの知見は,IL-22 が歯根嚢胞の病巣局所で間葉系幹細胞の分化に関与する可能性を示唆している。近年,歯根嚢胞由来の間葉系幹細胞は,歯根膜由来幹細胞や歯髄由来幹細胞と同様に再生医療への応用が期待されていることから,本研究で樹立した細胞株の性質をさらに評価することが,今後の課題である。