2019年度は、根尖部歯周組織におけるS1Pによる骨組織形成作用について検討を行った。 10週齢の雄性Wistar系ラットの下顎右側第一臼歯近心根をラバーダム防湿後、実体顕微鏡下にて抜髄・根管充填後、歯根尖を切除するとともに、直径2mm、深さ1mm の骨窩洞を形成した。その後、S1PR2作動薬 (CYM-5520)と基材を混合して骨窩洞内に注入、縫合してラット歯根尖切除/歯槽骨欠損モデルの確立を行った。欠損部骨組織の変化についてmicro-CTを用いて評価した(福岡歯科大学動物実験承認番号:18014)。 ラット歯根尖切除/歯槽骨欠損モデルにおいて、術直後と術後3週に、骨形成のパラメーターである骨量、骨梁数、骨量幅についてmicro-CT解析を行ったところ、基材のみを填入した対照群と比較して、S1PR2作動薬により骨量、骨梁数は有意な増加を認め、骨量幅は増加傾向を認めた。加えて、同部のH-E染色、S1P受容体の免疫染色による組織解析を行ったところ、対照群と比較して実験群では血管様組織を伴う骨様組織が多く確認されたが、この組織形成は残存骨組織の部位から離れた部位に認められた。すなわち、S1PR2作動薬は、骨を失った部位の周囲から骨芽細胞を誘導して骨形成を促す能力、骨誘導能を持つ可能性が示唆された。また、骨様組織形成部位にはS1PR1受容体陽性細胞が、そこからやや離れた場所にS1PR2受容体陽性細胞が多く認められた。 同様の実験を、S1PR1作動薬 (FTY720)においても実施しているところであり、S1PR2作動薬と骨形成パラメーターの比較や骨様組織形成時のS1P受容体の役割についての検討を行う。
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