2019年度は前年度に引き続き、複数の急性期と維持期の施設における調査に加えて、回復期の施設においても横断調査を行い、最終的な研究対象者として、急性期81名、回復期104名、生活期76名が複数の施設から登録された。 平均年齢は急性期群約78歳、回復期群約81歳、維持期群約83歳で、意識レベルとADLの中央値は急性期群はJCS1、PS4、回復期群と維持期群はJCS0、PS3であった。食形態を示すFOIS平均値は急性期群2.5に対して回復期群と維持期群では5.4であり、嚥下機能を示すDSS平均値は急性期群3.7に対して回復期群4.8、維持期群5.0であった。 口腔環境を示すOHAT合計点数、歯数に各群で有意な差はなかったが、最も優先度の高い歯科的対応は、急性期群は嚥下障害(35.6%)であったのに対し、回復期群・維持期群は義歯(29.8%、40.3%)であった。口腔ケアは各群で比較的優先度が高かった。必要だが実施できなかった歯科的対応は、急性期では義歯が非常に多く、次いで抜歯、摂食嚥下リハビリテーションの順であった。また、回復期では実施できない対応は義歯以外は少なく、維持期は急性期と同様の傾向であった。その原因としては、急性期群では時間的問題や歯科医療体制の問題があげられ、回復期群や維持期群では時間的問題に加えて本人や家族のニーズが低いこと、さらに維持期では認知機能低下があげられた。 以上より、経口摂取に問題を抱える高齢者においては、ライフステージで口腔環境に大きな差はないが、各期で優先すべき歯科的対応やニーズは異なることが明らかとなった。特に、急性期では咽頭期障害、回復期や維持期では準備期や口腔期の問題が多く、義歯への対応の重要性が示唆された。経口摂取に問題を有する高齢者においては、ライフステージや社会的環境を考慮して柔軟な歯科的対応を提供する必要性が明らかとなった。
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