研究課題/領域番号 |
17K11745
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中村 隆志 大阪大学, 歯学研究科, 准教授 (20198211)
|
研究分担者 |
関野 徹 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (20226658)
若林 一道 大阪大学, 歯学部附属病院, 助教 (50432547)
西田 尚敬 大阪歯科大学, 歯学部, 講師(非常勤) (70448116)
矢谷 博文 大阪大学, 歯学研究科, 教授 (80174530)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | ジルコニア / 蛍光性 / ツリウム / 透光性 / 破壊靱性 |
研究実績の概要 |
一般に市販の歯科用高透光性ジルコニアには蛍光性がなく、明るく白い歯を再現するのが困難である。さらに、高透光性ジルコニアは、透光性向上のため劣化抑制に有効なアルミナをほとんど含んでおらずフレーム用ジルコニアよりも口腔内で劣化しやすい性質を持っている。そこで、本研究は天然歯と同様の色調の蛍光性をもち、長期間使用しても劣化しにくいクラウンブリッジ用の高透光性ジルコニアを開発することを目的とした。 29年度の実験から、Tmを添加したジルコニアが天然歯に近い青色の蛍光性を示すことがわかったので、より蛍光強度が高くなる条件を最適化するために、標準グレードのジルコニア(TZ-3Y-E)に加えて、2種類の歯科用高透光性ジルコニア(ZpexおよびZpex Smile)を用い、Tm2O3の混和率を変えて試料を作製し、蛍光性や物性を評価した。その結果、2種の高透光性ジルコニアでは、Tm2O3添加量が0.8 wt%で蛍光強度が最大となった。蛍光強度は、2種の高透光性ジルコニアで大きな違いはなかった。また、高透光性ジルコニアの透光性はTm2O3添加量が変化しても、大きく変わらないことが示された。ビッカース硬度は3種のジルコニアで大きな相違はないが、破壊靱性値(K1c)はZpex Smileが他の2種よりも小さくなった。これは、Zpex Smileはイットリアの添加量が多く、ジルコニア特有の応力誘起相転移強化機構が十分働かなかったことが原因と思われた。今回の実験から、イットリアを3mol%含んだ歯科用高透光性ジルコニアに、Tm2O3を0.8 wt%すると青色の蛍光が得られることが示された。しかしながら、この試料であっても、紫外線ライト下の蛍光は天然歯よりも暗い色調であった。そこで、より天然歯に近い蛍光を得るためには、蛍光色調を天然歯に近づける必要があるものと思われた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の実験で、抜去歯の歯冠部を板状に切断して製作した試料に紫外線を照射すると、従来の報告と同様の青白色の蛍光が確認できた。光が届きにくい口腔内であっても、クラウンやブリッジに蛍光性があれば、明るく見えると言われている。歯科用のセラミックスやレジンでは、有機蛍光材料や蛍光ガラスによって蛍光が付与されている。しかしながら、ジルコニアは多結晶体であり、焼結温度が高いので、このような材料を使用することができない。 前年度の実験でジルコニアにツリウム酸化物(Tm2O3)を微量添加すると青色の蛍光を得ることができたので、本年度は、ジルコニアの種類やTm2O3添加量を変化させて、蛍光性や物性を検討した。その結果、イットリアを3mol%含む歯科用の高透光性ジルコニアにTm2O3を適量添加すれば、物性に影響を与えることなく、青色の蛍光を発光させることができた。歯科用の高透光性ジルコニアは、標準グレードのイットリア安定型ジルコニアに比べると物性の低下が懸念されるが、イットリアを3mol%含む製品(Zpex)であれば、その透光性が蛍光強度の上昇にも効果的であることが明らかになり、以後の実験はこのジルコニア材料を使用して進めることとした。また、本年度の実験で得られた試料の透光性は、天然歯に比べると暗い色調であり、より色調を天然歯に近づけることが必要と思われた。
|
今後の研究の推進方策 |
蛍光性は材料の透光性にも影響を受けるといわれており、本年度の実験では、29年度に使用した市販の標準グレードジルコニアよりも透光性の高い市販のイットリア添加量の異なる2種の高透光性ジルコニア材料を使用した。その結果、イットリアを3mol%含んだ高透光性ジルコニア(Zpex)であれば、破壊靱性を低下させることなく、蛍光強度を上げることができたので、次年度も実験には、母材としてこのジルコニア材料を使用することとした。 本年度の実験で得られた蛍光は、添加量をコントロールすることによりある程度その強度を上げることができた。しかしながら、天然歯に比べると暗い色調であった。これは、肉眼で観察できる蛍光は、単に蛍光強度だけでなく、その色調が影響を与えていることが考えられた。そこで31年度は、複数の蛍光の混色を使用することを試みる予定である。具体的な方法として、ツリウム(青色)に、エルビウム(緑色)を適量加えれば、より天然歯の蛍光色調に近づけられるかを色度図により判断し、両者の添加量を変化させて実験を行う必要がある。また、物性の評価も30年度のビッカース硬度や破壊靱性だけでなく、より臨床での有用性を判断するため、別の試料による3点曲げ試験も加えて行いたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者(大阪歯科大学、西田尚敬先生)へ配分した分担金が一部繰り越されたものです。次年度に旅費や物品費として支出予定です。
|