開口障害の主たる原因となる咀嚼筋の筋・筋膜痛が生じるメカニズムは解明されていない。本研究では開口量が正常範囲である健常被験者を咬筋の圧痛の有無にて2群間に分類し、定量的感覚検査(QST) を用いて咬筋上の皮膚の感覚機能を比較、検討を行った。 口腔顔面痛の既往を認めず、健常者28名(男性12名、女性16名)を被験者とした。全被験者の右側咬筋に1.0kgの荷重を加え、圧痛を認める群(MMP群)(12名) と圧痛を認めない群(NMMP群)(16名) の2群間に分類した。QSTの測定項目はGerman Research Network on Neuropathic Painが推奨する13項目とした。QSTの測定部位は右側咬筋上と右側母指球筋上の皮膚とした。 咬筋におけるMMP群の圧痛閾値(PPT) は、NMMP群と比較して有意に低い値を示した(P< 0.05) 。咬筋上の皮膚におけるMMP群のピンプリック刺激により評価を行う機械的疼痛感度(MPS) は、NMMP群と比較して有意に高い値を示した(P< 0.05) 。右側母指球筋上の皮膚における全測定項目は有意差を認めなかった。以上の検討を基としてMMP群6名とNMMP群6名に対し、測定部位である右側咬筋上と右側母指球筋上の皮膚に表面麻酔を30分間塗布しMPS、PPTを測定した。咬筋におけるMMP群のPPT は、NMMP群と比較して有意に低い値を示した(P< 0.05) が、MPSは両群間に有意差を認めなかった。 痛覚過敏の指標となるMPSは咬筋上の皮膚においてNMMP群と比較してMMP群にて有意に高い値を示したが表面麻酔の塗布により有意差は消失したことから、MMP群における咬筋上の皮膚の疼痛閾値が低下していることが示唆された。以上より、咬筋の筋・筋膜痛が咬筋上の皮膚の痛覚閾値を低下させた可能性あるいは咬筋上の皮膚における痛覚閾値の違いが咬筋の圧痛を発現する因子となる可能性が示唆された。
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