研究課題/領域番号 |
17K11796
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
野崎 浩佑 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 助教 (00507767)
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研究分担者 |
永井 亜希子 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 准教授 (40360599)
堀内 尚紘 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 助教 (90598195)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | III型コラーゲン / 歯根膜由来細胞 |
研究実績の概要 |
歯と歯槽骨を結合する歯根膜組織は,多種多様な細胞群を含む線維性結合組織であり,骨とセメント質の2つの硬組織に囲まれているにもかかわらず石灰化せず,その厚さが一定である生体内でも稀有な組織で,歯周組織の恒常性の維持を担う.歯科診療において近年,幅広く用いられているインプラント治療は,この歯根膜組織が存在しないため,インプラント体周囲の歯周組織のリモデリングが行われず,加齢等による生体反応への適応性が低い.また,天然歯において歯周組織は細菌感染に対するバリア機能を発揮するが,インプラントによる治療が細菌感染に対して抵抗性が低い原因も,歯周組織の欠損に由来する.本研究では,歯根膜組織再生を促す生体材料開発の基礎的知見の獲得のため,歯周組織に特異的に発現の向上が認められるIII型コラーゲンの機能に着目した.III型コラーゲンは,歯根膜組織やセメント質に特に多く発現し,その構造はα1鎖のトリプルヘリックス構造でα1鎖とα2鎖からなるI型コラーゲンの構造とは異なることが報告されている.我々はI型コラーゲン及びIII型コラーゲンが歯根膜由来細胞の機能発現に及ぼす影響を検討する為に,コラーゲンをコートしたハイドロキシアパタイト上での歯根膜由来細胞を播種し培養した.播種した細胞の増殖はIII型コラーゲンにおいて促進した.また,骨芽細胞分化培地にて培養したところ,I型コラーゲンおよびハイドロキシアパタイト上でALP活性が促進し,III型では抑制されたことから,歯根膜組織の線維性結合組織の再生には,III型コラーゲンを用いた足場の設計が重要であることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,生体骨の主成分であるハイドロキシアパタイトを湿式法にて合成し,そのキャラクタリゼーションを行った.その結果,作製した粉体はリン酸イオンと水酸化物イオンを有し,ハイドロキシアパタイトの結晶構造であった.作製した粉末を使用して一軸加圧成形し,1250℃水蒸気雰囲気下で焼結しペレットを作製し,コントロール試料とした.作製したペレットに,ブタ皮由来のI型コラーゲンおよびIII型コラーゲンをディップコートした.コーティングした試料をFT-IRにて解析したところ,コーティングした試料ではアミド由来のバンドが観察され,コラーゲンが適切にコーティングされていた.ラット上顎骨M1,M2,M3を抜歯し,酵素処理により歯根膜由来細胞を得たのち,培養を行った.得られた歯根膜細胞の継代ごとにリアルタイムPCRにより遺伝子発現を解析したところ,継代数の増加に伴い,骨形成因子であるRUNX2が減少し,Periostinの増加が認められた.主に3継代目以降に形質の変化が認められたことから,本研究では2継代目の歯根膜由来細胞を用いて検討を行った.歯根膜由来細胞の増殖性をMTTアッセイにて検討したところ,III型コラーゲン上で,I型コラーゲンおよびハイドロキシアパタイトと比較して有意に増殖が促進した.また,骨芽細胞誘導培地を用いて分化を誘導したところ,I型コラーゲンおよびハイドロキシアパタイト上のALP発現が,III型コラーゲン上のものと比較して有意に増加した.また,アリザリンレッドS染色により石灰化能を検討したところ,ALPの結果と同様にI型コラーゲンおよびハイドロキシアパタイトアパタイト上で有意に促進した.以上より,歯根膜組織の線維性結合組織の再生には,III型コラーゲンを用いた足場の設計が重要であることが示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
歯根膜線維芽細胞のセメント芽細胞・骨芽細胞へのパラクライン的作用を明らかにするために,セルカルチャーインサートに各コラーゲンおよび低分子化合物をコートし歯根膜線維芽細胞を播種する.また,細胞培養用ディッシュにはセメント芽細胞・骨芽細胞を播種し,共培養を行うことにより歯根膜線維芽細胞から分泌されたタンパク質の発現をELISA法にて検討を行う.また,細胞間相互作用の影響を明らかにするために,カバーガラスにコーティングを施し,歯根膜線維芽細胞を接着させる.接着完了後,細胞を含むカバーガラスを新しい細胞培養シャーレに移し,その周囲にセメント芽細胞・骨芽細胞を播種し,一定器官培養後,細胞間相互作用の検討を,タンパク・遺伝子レベルで検討する.特に,細胞間相互作用にかかわるカドヘリンを介したシグナリングカスケードを解析する.また,セメント芽細胞・骨芽細胞による硬組織形成能は,体液中のカルシウムイオンとリン酸イオンの過飽和状態と細胞外基質によるヘテロジーニアスな結晶成長と考えられている.セメント質の有機成分は,III型コラーゲンが多く発現し,一般的な骨の硬組織形成とそのメカニズムが異なることが考えられるため,形成された硬組織の評価を走査型電子顕微鏡や,顕微FTIRを用いて評価を行う.以上により最適化された細胞外基質を参考に,チタンインプラントの表面に歯周組織を模した構造を付与し,歯根膜由来細胞の3次元細胞培養を行い,歯根膜組織およびセメント質・骨などの硬組織形成能を,実験動物を用いてインプラント体を埋入し組織学的に評価する.
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次年度使用額が生じた理由 |
未使用額が生じた理由は,実験動物より細胞を採取するのに十分な細胞数が得られたため,最小限の購入になったためである.また,既存の試薬を用いて試料の作製を行ったため,差額が生じた.未使用額と次年度使用額を併せて以下の項目に関して使用する予定である.①研究成果発表のための旅費(国内会議,国際会議)②試料作製に必要な薬品,消耗品の購入③細胞実験のための必要な薬品,消耗品,解析用試薬④動物実験のための必要な薬品,消耗品,解析用試料作製のための薬品,試料滅菌のためのガンマ線滅菌費用など.
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