研究実績の概要 |
骨・軟骨の発生においては,線維芽細胞増殖因子(FGF)のFGF受容体(FGFR)を介したシグナル伝達が重要な役割分担を果たしている.申請者らはこれまでに,骨・軟骨に存在する新規の可溶型FGF受容体(可溶型FGFR2-IIIb)を見出した(香川ら, 2015).この可溶型FGFR2-IIIbのFGF-FGFRシグナルにおける役割の解明を行い,新規の骨・軟骨再生に応用可能な基盤的知見を得ることを目的とした研究を行った. この新規の可溶型FGFR2-IIIbはマウス頭頂骨,下顎骨軟骨および四肢長管骨の骨端軟骨に発現し,一方で中手骨,鼻中隔軟骨には発現しないことが明らかになった.また,マウス由来軟骨前駆細胞株ATDC5は従来の膜型FGFR2-IIIbを発現せず,可溶型FGFR2-IIIbのみを発現していた. そこで,このATDC5細胞に遺伝子導入を行い,可溶型FGFR2-IIIbが過剰発現するATDC5細胞を作製した.この細胞を遺伝子導入前のATDC5細胞と比較したところ,導入前より高い細胞増殖能を示した.また,リガンドとなるFGF10を添加したところ,更に細胞増殖は促進された.可溶型FGFR2-IIIbを過剰発現させたATDC5細胞のシグナル伝達経路を精査したところ,FGF10を添加したときのMAPKシグナル伝達におけるERKのリン酸化が,遺伝子導入前より増強されていた. これらのことから,特定の骨・軟骨に発現する可溶型FGFR2-IIIbをATDC5細胞において過剰発現させると,過剰発現前よりリガンド結合時の細胞内シグナル伝達が増強され,軟骨の増殖能を亢進させることが明らかになった.このことは,新規の骨・軟骨再生療法へ繋がる新しい基礎的知見になると考えられる.
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