最終年度は、歯髄細胞集団において有用なマーカー候補遺伝子の発現を検証するため、よく知られた間葉系幹細胞マーカーの1つであるCD146を結合した磁気ビーズで分離した歯髄細胞におけるマーカー候補遺伝子の発現を解析する実験を継続した。磁気ビーズを用いてCD146抗体で歯髄細胞集団を分離した結果をフローサイトメトリーで確認したところ、分離後の細胞集団には7-AAD陽性の死細胞はほとんど含まれていなかった。磁気ビーズ分離前の歯髄細胞集団には70%以上のCD146陽性細胞があり、磁気ビーズで分離後のCD146ポジティブフラクションでは、CD146陽性細胞の割合は90%以上となった。一方、CD146ネガティブフラクションにも20%弱のCD146陽性細胞が含まれていた。CD146ポジティブフラクションとネガティブフラクションをそれぞれ継続培養した結果、ポジティブフラクションの細胞は典型的な線維芽細胞様の形態で高い増殖能を示した一方、ネガティブフラクションの細胞では老化の様相が観察された。CD146は間葉系幹細胞マーカーとして知られており、CD146ポジティブフラクションには歯髄幹細胞が多く、ネガティブフラクションには少ないと考えられる。この磁気ビーズで分離した細胞集団中におけるマーカー候補遺伝子の発現を現在qRT-PCRで解析中である。 研究期間全体を通じて、本研究では歯髄細胞集団の中で多分化能を持つ幹細胞様細胞と限定された分化能を持つ前駆細胞様細胞を区別できるマーカー候補遺伝子を絞り込むことに成功した。今後、本研究で同定した新規マーカー候補遺伝子で歯髄細胞集団中の幹細胞と前駆細胞を区別して両者の相互作用を解析し、象牙質/歯髄再生メカニズムを解明することで、歯髄の再生にかかる治療期間を短縮できる方法の研究開発を発展させることができ、患者の負担軽減につなげることができる。
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