研究課題/領域番号 |
17K11815
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研究機関 | 鶴見大学 |
研究代表者 |
早川 徹 鶴見大学, 歯学部, 教授 (40172994)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | オッセオインテグレーション / チタンインプラント / 水晶発振子マイクロバランス / QCM / カルシウムイオン / タンパク質 / フィブロネクチン |
研究実績の概要 |
チタンへのタンパク質の吸着挙動をQCM(水晶発振子マイクロバランス,quartz crystal microbalance)法を用いて検討した.まず,タンパク質吸着に与えるカルシウム(Ca)イオンの影響を調べた結果,チタン表面にCaイオンを吸着させると,細胞接着タンパク質であるフィブロネクチン(Fn)の吸着量が有意に向上することを見出した.また,Fnの見かけの吸着速度Kobsについて反応を詳細に解析した結果,吸着初期ではCaイオン吸着によってKobsの値が向上しており,吸着速度も速まることが分かった. 生体内では様々な種類のタンパク質が存在しており,各種タンパク質が段階的に吸着することが予想される.Fnおよびアルブミン(Alb)の2種類について,チタンへの吸着がその後のタンパク質接着に与える影響についてQCM法で検討した.まず,Fnをトレシルクロリド法によりチタンセンサーに固定し,Fn固定チタンに対するAlbの吸着を調べた.その結果,どちらの条件でもAlbまたはFnの吸着が確認できなかった.そこで次に,QMセンサーセル内にまずFnを注入してチタンにプレ吸着させ後に,Albを注入して吸着挙動を測定した.また,逆にまずAlbを注入してチタンにプレ吸着させた後に,Fnを注入して吸着挙動を測定した.その結果,どちらもトレシルクロリド法で固定した場合とは異なり,Fnプレ吸着チタンへのAlbの吸着,Albプレ吸着チタンへのFnの吸着が確認でき,Albの吸着はFnのプレ吸着によって抑制される傾向が見られた.一方,Fnの吸着はAlbのプレ吸着によって,それほど大きな影響は受けなかった.生体内でのアパタイト沈着も骨形成に寄与している.チタンおよび表面修飾チタンに対するアパタイト吸挙動についてもQCM法で検討し, DNAを用いた表面修飾によりアパタイト沈着が促進されることも見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
チタンセンサーにトレシルクロリド法にてFnまたはAlbを固定させる手法の確立に時間がかかった.トレシルクロリド法はチタン表面にトレシクロリド(CF3CH2SO2Cl)を塗布し,37℃で2日間放置後,タンパク質水溶液にトレシル化チタンを浸漬して,タンパク質を固定化させる手法である.チタンセンサーは,電極を有しており,タンパク質水溶液に浸漬することが困難である.タンパク質水溶液をチタンセンサー表面に保持させる方法について検討を要した.また,Fnをトレイルクロリドにて固定化後,Fn水溶液の濃度が高いと,すなわち固定化されたFnの量が多いとQCM測定時の発振が観測されなかった.Fn水溶液の濃度を低下させ,センサーセルが発振する条件を見出した.現在は,タンパク質水溶液の保持方法,QCM測定に適したFn濃度を確立することができている.タンパク質をチタンセンサーにプレ吸着させる方法は,従来の測定方法の延長であるので,特に問題なく測定ができている.
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今後の研究の推進方策 |
チタンへのタンパク質の吸着には,タンパク質の等電点が関与することが考えられる.Fn,Albの等電点はそれぞれ4.7,5-6と報告されており,測定条件下(pH=7.4)では負に帯電している.等電点が7.4以上のタンパク質,例えばコラーゲンを用いてプレ吸着させると,FnやAlbと静電引力で引き合い,吸着挙動が異なる事が予想される.また,QCM測定時の緩衝液のpHを中性領域(pH=7.4)以外に酸性領域(pH=3~4)と変化させることにより,タンパク質の帯電状態が異なり,吸着挙動に影響すると思われる.タンパク質吸着に与えるpHの影響も検討課題である.
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