研究課題/領域番号 |
17K11827
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
道 泰之 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 講師 (70376755)
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研究分担者 |
中川 一路 京都大学, 医学研究科, 教授 (70294113)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 複合感染症 / 顎骨骨髄炎 / メタゲノム解析 / メタ16S解析 |
研究実績の概要 |
本研究では、複合感染症のひとつである顎骨骨髄炎の細菌性病原因子を同定するために、次世代高速シーケンサーを用いて病変より採取した腐骨から塩基配列情報を獲得し、メタ16S解析およびメタゲノム解析を行った。メタ16S解析では、16S rRNA遺伝子から16S rRNAへの転写率を細菌の活動性として、病変における細菌活動性を評価する解析プロトコールを確立した。その結果、 先行研究でコア・マイクロバイオームとして同定されていた36細菌種のすべてが高い活動性を示すわけではなく、難培養性細菌および存在量の少ないマイナーな細菌種でも高い活動性を示すことが明らかとなった。すなわち、顎骨細菌叢の病原因子を同定するためには、病変における優占種だけでなく、難培養性細菌種なども含めた細菌叢解析を行わなければならないことが示された。さらに、メタゲノム解析では、細菌種だけでなく古細菌、ウイルス、バクテリオファージも存在している可能性が示された。これらの微生物は、腸内細菌叢、歯周炎おける細菌叢に対する研究は行われており、その報告は認めるものの、顎骨骨髄炎における細菌叢への影響を解析した報告は認めない。また、バクテリオファージは細菌叢の構成に関与している可能性があることが腸内細菌叢の解析で報告されており、ファージ療法として抗菌薬に依存しない治療方法を提供する可能性もある。細菌種だけでなく、病変に存在する微生物叢全体をさらに解析することで、顎骨骨髄炎に対する新たな治療戦略を構築できる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、メタ16S解析およびメタゲノム解析を行うことによって、顎骨骨髄炎の細菌叢構成、細菌種の活動性およびウイルス、古細菌の存在を明らかにした。しかし、本解析では、細菌層の遺伝的ポテンシャルを高解像度で解析することはできるものの、実際の細菌種がどのような機能遺伝子を有していて、それらが慢性化した疾患においてどの程度タンパクへと翻訳されているかを評価することができない。そのため、顎骨骨髄炎の病原因子をさらに同定するためにはメタトランスクリプトーム解析が必要と考えた。 病変より採取した腐骨から抽出できる全RNAは少ないため、一定以上のサイズの腐骨の採取が求められる。メタトランスクリプトーム解析を行うための倫理申請書を再作して提出(現在審査中)するとともに、さらに検体を採取し直している状況である。 メタ16S解析およびメタゲノム解析の結果に関しては、現在論文作成準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
現在審査中の書類が倫理審査を通過後、再度顎骨骨髄炎患者からの検体採取を再開する。 上記採取に並行して、現在フリーザーに保管中の検体から全RNAを抽出しメタトランスクリプトーム解析を行う。病期の進行に伴って有意に発現量が変化する機能遺伝子を選定し、そこから翻訳されるタンパク質の機能解析を進めることで、細菌種以外の顎骨骨髄炎病原因子を同定、抗菌薬に依存しない新規治療ターゲットを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、新たにメタトランスクリプトームも進めるため、新たに倫理審査に関する書類を作成などにより一時的に研究を停止する必要があったため、科研費を使用しない期間があった。審査終了後、メタトランスクリプトーム解析を進めるため、再度試薬の購入、スーパーコンピューターの利用料が発生するとともに、研究結果を発表するための論文校閲料、投稿料で使用していく予定である。
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