研究課題/領域番号 |
17K11828
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
KA 井上 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (90302877)
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研究分担者 |
渡部 徹郎 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (00334235)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エクソソーム |
研究実績の概要 |
エクソソームは細胞から分泌される小胞で、細胞質に存在するメッセンジャーRNAやマイクロRNAなどの核酸をはじめ、さまざまな分子を含んでいる。エクソソームは細胞の種類によりその表面も内容物にも分子的な多様性があり、どの細胞に取り込まれるかという特異性を規定している。腫瘍由来のエクソソームは上皮間葉移行(EMT)を誘導し、浸潤や血管形成、転移を促進することが報告されている。そこで腫瘍細胞におけるエクソソームの形成と取り込みの調節機構の解明が重要である。動物細胞の表面はプロテオグライカンにより覆われている。プロテオグライカンの中でもシグナル伝達への関与が大きいヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)がエクソソームの取り込みに関与することが示唆されている。本研究では腫瘍細胞においてHSPGとエクソソームの形成と取り込みの調節機構との関連を調べた。 HSPGは細胞表面に存在するので、エクソソームの取り込みに関与することが想定されたが、本研究の過程で、TGF-βの刺激によりHSPGそのものの量が変動する可能性が示唆された。HSPGはコアタンパク質にヘパラン硫酸鎖が付加したものであるため、HSPGの量的変動に影響を与える因子としてはコアタンパク質の発現とヘパラン硫酸鎖の付加が考えられる。TGF-βによるHSPG制御、HSPGによるエクソソームの形成促進、という新たな方向性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
口腔扁平上皮がんに由来する細胞におけるTGF-βによるEMT誘導とエクソソームとの関連を調べた。その結果TGF-βで処理した細胞から分泌されているエクソソームが、TGF-βにさらされていない細胞に取り込まれてEMTが誘導されることが示唆された。TGF-β刺激にはエクソソームの分泌量が増加したため、EMTの誘導時のHSPGの発現(ヘパラン硫酸鎖をもつタンパク質の変動)について検討したところ、TGF-β処理により特定なHSPGが増加傾向を示した。そこでHSPGは、細胞表面でのエクソソーム取り込みだけでなく、TGF-β刺激時のエクソソーム形成を亢進し、エクソソームを介した広範囲のEMT誘導を促進する可能性が考えられた。 エクソソーム取り込みを可視化する実験系を構築するために蛍光標識されたエクソソームを分泌する細胞モデル(エクソソーム膜上に特異的に発現するタンパク質CD63-Kusabira Orangeを発現している口腔扁平上皮がん細胞)を作成した。しかし蛍光で追跡可能な量のエクソソームを検出することはできず引き続き発現条件などの検討が必要である。HSPGの役割を明らかにするためにCRISPR-Cas9のシステムを用いたゲノム編集によりヘパラン硫酸鎖を伸長する糖転移酵素(EXT1)の遺伝子を欠損させた細胞を作成した。
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今後の研究の推進方策 |
今後、以下の実験を行う。①蛍光標識されたエクソソームを分泌する細胞モデル(CD63-Kusabira Orangeを発現している口腔扁平上皮がん細胞)を用いて、エクソソームががん微小環境を構成する細胞(がん細胞及び内皮細胞)に対する作用及び微小環境構成因子の発現に対する作用を引き続き検討する。②HSPGの糖鎖部位の生合成過程で重要な酵素、EXT1遺伝子をノックアウトした口腔扁平上皮がん細胞株を用いてHSPGを介したエクソソームの取り込みを検討する。③今年度に同定したHSPG遺伝子をノックアウトした口腔扁平上皮がん細胞株を確立し、TGF-βで処理した際分泌されているエクソソームを用いてエクソソームの取り込みを検討する
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次年度使用額が生じた理由 |
実験の遅れにより昨年度実施することができなかった前項①(共焦点顕微鏡を用いた蛍光標識されたエクソソームの取り込みの観察)において、エクソソームの精製に必要な試薬、及び抗体が必要となっている。それに伴い、共焦点顕微鏡が設置されている本学共同実験設備の分析機器使用料のための経費が必要である。
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